第25話 第二艦隊出撃
陸海軍によるムンバイ撤収作戦
陸軍はインド南部に展開する宮崎繁三郎中将の第十三軍が参加する事となった。その兵力は弘前第八師団・久留米第十二師団・宇都宮第十四師団に加えて戦車第三師団が作戦の為に配属されている。
この第十三軍と共同するのはインド軍第七軍団の二個師団だ。
陸軍は第四航空軍により航空支援を行うとしている。
海軍は第二艦隊が海軍部隊として撤収作戦を担う事になった。
第二艦隊(三川軍一大将)
第一遊撃部隊(宇垣纏中将)
戦艦「大和」・「武蔵」
重巡洋艦「高雄」・「愛宕」・「那智」・「羽黒」
軽巡洋艦「矢矧」駆逐艦八隻
第二遊撃部隊(鈴木義尾中将)
戦艦「阿蘇」・「羅臼」
重巡洋艦「伊吹」・「鞍馬」
軽巡洋艦「川内」駆逐艦八隻
機動部隊(大林末雄中将)
空母「天城」・「飛龍」
重巡洋艦「最上」
軽巡洋艦「大淀」駆逐艦十隻
警戒部隊(橋本信太郎中将)
重巡洋艦「鈴谷」・「熊野」
軽巡洋艦「那珂」駆逐艦六隻
主隊(三川軍一大将直率)
戦艦「信濃」
軽空母「千歳」・「千代田」
軽巡洋艦「神通」駆逐艦六隻
軽巡洋艦「長良」駆逐艦十二隻
補給部隊
油槽船六隻
海防艦四隻
まさに、連合艦隊はドイツ軍艦隊が襲来しても返り討ちにして輸送作戦を成功させるつもりであった。
連合艦隊司令長官である古賀は出撃にあたり三川大将ら主だった司令官を集めた前で
「今次作戦の成功がインド洋の戦局を左右する。襲来する敵艦隊を撃滅し、輸送作戦を成功させよ」
連合艦隊の意気はこうして上がっていた。
だが、そうとも言えないのが機動部隊であった。
ディエゴ・スアレス強襲での損害から母艦航空隊は再建途上であった。第二艦隊の一部に組み込まれた空母「天城」と「飛龍」は比較的再建が進んでいる六五三航空隊を載せて出撃する事になっていた。
与えられた役割も索敵や味方部隊の掩護を主に言い渡されていた。
空母部隊の士官の中には戦艦部隊の脇役にされたような思いだと愚痴をこぼす者も居た。
「もしも、敵空母を発見した場合は攻撃して良いですか?」
機動部隊の司令官である大森中将は第二艦隊司令長官の三川大将に尋ねた。
「構わないが、あくまで任務は自軍の援護である事を忘れはならんぞ」
三川は大森に釘を刺した。
大森は攻撃に熱を上げていた訳では無かった。
ただ遭遇した場合の対処を尋ねていた。先の対米戦で空母部隊に居た大森は今の日本の空母部隊が戦力が整っていない事を理解している。無理はしないつもりであった。
だが三川は大森の質問から、貴重な航空戦力を一時の迷いで潰すのではないかと訝しる。
「敵空母を発見したら攻撃して良い。それ以外を発見した場合は攻撃してはならない。これを基準とせよ」
三川の示した基準に大森は了解と答える。
大森にしてもあえて攻撃をするのは敵空母以外に考えていなかったからだ。
第二艦隊のコロンボ出港はセイロン島近海に潜むUボートにすぐ見つかる。
そしてディエゴ・スアレスのドイツ海軍インド洋艦隊司令部に通達された。
「雌雄を決める好機、出撃すべきです」
インド洋艦隊司令部作戦参謀のハーラルト・ヒルト大佐が艦隊司令官であるチクリアスへ提言する。
「私は出撃には反対です」
マテウスははっきりと言い返す。
「敵が出たのだ。叩くのが当たり前だ」
ヒルトは持論を押し出す。
「その当たり前で戦力を落とす訳にはいかない」
マテウスは引かない。
「マテウス大佐、貴官のイギリスに備えてここで戦力を減らしたくない考えは理解できる。だが、軍人として今起きている事に対処すべきではないか?」
マテウスは以前からドイツ海軍はインド洋で日本軍相手に戦力を消耗すべきではない、ドイツ海軍の敵はイギリス海軍であると主張していた。
「その対処で、あえての放置です。大型艦を多数動かせばインド洋の日本海軍は燃料をかなり消費する。それは戦わずして勝つ事を意味する」
マテウスの考えにヒルトはそうなのか頭を巡らす。
セイロン島のコロンボに拠点を置く日本海軍連合艦隊は燃料となる石油をボルネオやスマトラ島などの東南アジアの資源地帯から海路運ばせていた。
それはドイツ軍も開戦前から知っていた。
だからマラッカ海峡の西側とアマンダン海にUボートを潜入させて日本の油槽船を攻撃させていた。
幾ら比較的短い距離で燃料の補給ができるとはいえ、大食いの戦艦が呑み込んだ量をすぐに補充できるだろうか?
考える程にヒルトはマテウスの考えが合理的に思えた。「一理ある」と答えてしまう。
「確かにマテウス大佐の意見は納得できる。だが、ベルリンは出撃せよと言うだろう」
チクリアスはヒトラーなりデーニッツが出撃を命じるだろうと推測された。
その推測は2時間後に当たっていると分かる。
海軍総司令官のデーニッツからインド洋艦隊は出撃するのか問う電報が届いたからだ。
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