第24話 陸軍ムンバイ撤収作戦に動き出す
佐川はコロンボに戻ると、陸軍によるムンバイへの作戦案を古賀へ伝えた。
「陸軍がやってくれるのは良いが、真意は何だろうか?艦砲射撃だけで済むのか?」
古賀は慎重な見方をする。
それもそうだ。陸軍の参謀が佐川を探して話して来たのだから何かあるのだ。
「その点に関しては聞いております」
佐川は木更津まで乗せてくれた道中に松井から聞いた事を思い出す。
「陸軍はムンバイの件にこうして関わるのは何故です?」
佐川は松井へ尋ねる。
ムンバイにはインド軍こそ居るが日本陸軍は一兵もいない。
「我が陸軍はインドでドイツ軍の補給線が伸びてから本格的に戦う方針です。しかし、海軍さんが損害を出しながらもムンバイ撤収作戦を行っている事に陸軍中央では思うところがあったようです」
「思うところ?」
「海軍はインド人の為に血を流している。陸軍は静観していて良いのか?と」
「面子の問題ですか?」
佐川は呆れ気味になる。
「航空隊は死力を尽くしていても、戦っている姿は見えない。陸で戦わねば日本陸軍の存在感は無くなると思っているようで」
「なるほど」
「それに面子だけではなく、インド政府やインド軍から陸軍はいつ戦線に出るのか問われているようで。陸軍が行動を起こす必要が内外から求められているのです」
「そういう事情ですか。分かりました」
佐川はこの顛末を古賀へ述べた。
「事情は理解できた。参謀長、陸軍を支援する作戦を検討してくれ」
「分かりました」
「これでムンバイから足抜けできれば良いがな」
最後に古賀は本音を漏らした。
陸軍によるムンバイ撤収作戦は大本営政府連絡会議で討議された。
「ムンバイの撤収に陸軍も動くべきと考える」
総理の寺内は陸軍内の行動すべきと言う意見が広がっているのを知っていた為に作戦を実行する事に肯定的になっていた。
「陸軍大臣、どうかね?」
「総理の意向に賛同します」
「参謀長、どうかね?」
「ムンバイに限定した作戦であるならば賛同です」
会議では寺内が陸相の畑大将と参謀総長の阿南大将と作戦実行について話し合う様子が見られた。
この流れの変化は外相の重光にとっては喜ばしかったが、陸軍の参加はムンバイ撤収作戦の終了が近いのだと悟った。
それを示すように軍令部総長の塚原大将は陸軍の参戦を歓迎した。
(海相の井上は賛同こそしたが素っ気ない反応であった)
陸軍内部の熱意はどうあれ、陸海軍の上層はムンバイの作戦を終了させる意図で合意しているように重光には見えた。
海軍は艦船の損失を抑える為に、陸軍は存在を示す為に動く。
そこに利害の一致があったのだ。
(軍もこれまで動いたのだ。ムンバイの件はこの辺りで終わる頃合いだな)
重光は政治の流れをそう読み、インド政府へどう話すかに頭を切り替える。
一方でインドの陸軍を統括する印度総軍司令部はムンバイへの攻勢作戦が参謀総長の名前で実行準備が命じられた。
「誰が言い出したのだろうな」
印度総軍司令官の山下元帥は呆れた。
ドイツ軍が長駆進撃して補給が細くなった時に本格的に戦う。そう方針を定めたではないかと山下は呆れたのだ。
「印度政府との関係を考えてでしょう」
総軍参謀長の武藤章中将が言う。
「事前に印度の政府と軍の了解はあったが、感情は収まらんか」
山下のところにも印度政府や印度軍参謀本部の内情は伝わっていた。大きくはないが「いつ日本軍が陸戦に出るのか?」と言う声があると知っていた。
「それよりも中央がどうなっているかが気になります」
武藤は陸軍省や参謀本部の意向が気になった。
遠くインドにあっては東京の様子は知れない。
「海軍が海戦を何度もやっているようだからな。そろそろ中央の連中が
戦果を欲しがる頃合いだな」
山下は推測する。
「おそらくそうでしょう。ムンバイの事ではなく陸軍の戦果が求められているのです」
山下も武藤も推測は合っていた。それは陸軍と言う内部を知っているが故であった。
「とはいえ、ムンバイの件はインド側からだが最初は我が総軍に来ていた要請だ。やはり我らがやらねばならない事だったのだ」
山下は中央への批判を切り上げ、自らの役目を語る。
「しかし、徒に戦力を減らしたくはありません」
武藤はムンバイへの攻勢に消極的だった。
「それは俺も同じだ。だが、やらねばならない。海軍に任せてばかりもいかないだろう」
山下の言に武藤は「それもそうですね」と渋々納得する。
海軍のムンバイでの作戦は印度総軍から連合艦隊へ要請して始まっている。それを思えば印度総軍が戦力温存を理由に作戦を拒むのは筋が通らない。
戦略方針を変える作戦
海軍と協同する作戦
決心したとはいえ、大がかりになるであろうムンバイでの作戦に山下と武藤は不安を感じざるえなかった。
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