第20話 戦車第十一連隊
第十五方面軍にとって数少ない戦車戦力が戦車第十一連隊である。
連隊には4個の戦車中隊がある。
第一中隊は九八式軽戦車を装備し、第二中隊と第三中隊は三式中戦車第四中隊は一式中戦車を装備している。
また連隊には一式自走砲を装備した砲兵中隊もある。
戦車の更新が戦車師団に優先された為に、戦車第十一連隊における戦車の更新はそこまで進まなかった。
軽戦車は新しい二式や五式ではなく、九八式
中戦車は二個中隊は三式に変ったが一個中隊は一式のままで日独開戦を迎えた。
そんな戦車連隊がSS第6装甲軍と戦う事になろうとしている。
連隊長の荒木克明大佐は「こりゃ接敵してすぐに玉砕だな」と腹を括る。
しかし多田の作戦案を聞くと「これなら玉砕は少し先にできるな」と展望を持てた。
では多田が荒木に与えた作戦とは何か?
「連隊と装甲軍では、戦車の数は圧倒的に差があります。まともにぶつかっては玉砕しかありません」
多田は戦力差をまず述べた。
「そこで十一連隊には日露戦争での騎兵のように戦って貰いたいのです」
「つまり、永沼挺身隊をやれと?」
荒木は多田の提案に日露戦争でロシア軍の支配地に侵入し、鉄道の破壊など後方攪乱を行った騎兵部隊である永沼挺身隊の事を指しているのかと思った。
「その通りです。ドイツ軍の後方で輸送部隊や物資が集積されている拠点を襲撃して頂きたいのです」
「良い作戦だと思う。補給の面を考えるに連隊の半分でやるべきと考えるが」
荒木は多田の作戦に賛同した。
だが、50両を越える戦車第十一連隊の戦車で敵の後方へ回り込むには補給が続かなければならない。
戦車の数が多ければ補給を送る負担が大きくなるから半数にしたいと荒木は言う。
「半数で結構です。むしろ数は多くない方が敵に見つかり難いでしょう」
「では2個中隊の戦車を出そう」
こうして送り出されたのが戦車第十一連隊第一中隊の中隊長である市川祐基大尉率いる市川支隊である。
市川支隊は戦車第十一連隊の第一中隊と第四中隊に補給隊で編成された。
九八式軽戦車と一式中戦車と言う小さく小回りが利く戦車を選んだのもあるが、37ミリ砲や47ミリ砲を装備した八九式や一式ではドイツ戦車を相手するには火力不足だ。だからこそこドイツ軍の後方を脅かす挺身部隊に相応しいと判断されたのである。
市川支隊はドイツ軍に察知されまいと夜間に移動し、第6SS装甲軍の後ろに回ろうと出撃した。
一方で第6SS装甲軍はカンプールとラクナウを占領すると第1SS装甲軍団を尖兵にインド北部を東へ進む。
インド軍は各所に警戒部隊を配置し、多くはドイツ軍と接触するとすぐに後退した。
「デリーが落ちてから抵抗が無いな。良いが不気味だな」
フェーゲラインは指揮装甲車であるSd.Kfz.251/3に乗り、第1SS装甲軍と同道しながら周囲の状況を見ていた。
首都であるデリーではインド軍をはじめ抵抗をしていたが、デリーが陥落すると抵抗を諦めたように何もしない。
こちらの姿を見るや車輌に乗り逃げて行く。
「士気が崩壊しているのかもしれません」と参謀は楽観論を述べる。
首都を落とされて士気が落ちた?インド政府はチェンナイに移転して戦争の継続を宣言している。
本当に士気は落ちているのかとフェーゲラインは疑問に思う。
士気が落ちているならムンバイの包囲されているインド軍は既に降伏しているだろう。
「司令官、第1SS装甲師団のシュルマン師団長から燃料の補給を我が師団に優先させよと要請が来ました」
副官の報告にフェーゲラインはため息を吐く。
デリーより東を進んでから補給態勢に乱れが生じて来ていた。
出発したパキスタン国境からカンプールは700km以上も遠くに来ていた。デリーに補給拠点を立ち上げていたが上手く機能していない。
パキスタンから届く物資の山に混乱していてデリーから送られる補給物資は予定の半分に満たなくなりつつあった。
幸いな事は戦闘がまともに無い為に燃料の補給を優先させれば良かった。
だが、戦車だけでは無くトラックや装甲車など各種車輌が毎日走って消費するのだから幾らあっても足りない。
ドイツ軍はイギリスが敷設した鉄道を使い補給列車を運行するものの、第6SS装甲軍に続き進撃するドイツ陸軍第18軍の補給も重なり満足な量は届かない。
こうして補給に不安を抱えながら、フェーゲラインはベンガル湾へ向かう進撃を続けていた。そうなると燃料の不足が前線部隊から出るのは必然だった。
こうして今も第1SS装甲師団からの要請にどう応えるかフェーゲラインは補給担当の参謀と話し合う事になる。
「確かに我が装甲軍の先頭を進むのは第1SS装甲師団ですが、最優先で補給をさせると装甲軍全体の進軍が乱れます」
補給担当の参謀は固く第1SS装甲師団へ補給を優先させる事を反対した。
「そもそも、第1SS装甲軍団の軍団長を頭越しに要請するのは無礼でありますが」
参謀長のオッペルも指揮系統の問題を取り上げ反対する。
フェーゲラインは参謀の意見に納得し第1SS装甲師団への優先的な補給を却下した。
「却下か。奴め、我が師団が止まったら総統に報告してやるぞ」
第1SS装甲師団「アドルフ・ヒトラー」の師団長であるクンツ・シェルマンSS中将は不満を吐く。
総統の名を冠した師団であるから装甲軍の尖兵を任されている。
その自負があり、なおかつ自身の醜聞による失点回復に装甲軍をフェーゲラインが指揮している事をシェルマンは知っていた。
だからシェルマンのフェーゲラインへの評価は低い。
それでも第1SS装甲軍団の司令官であるアルムスターSS中将の頭越しにフェーゲラインに燃料を求めるのは燃料事情が切迫しているからだった。
あまり評価していないが上官である、一軍の司令官である。
アルムスターでは解決できなかった問題をどうにかして貰おうとしたが結果は変わらない。
「インド軍か日本軍の燃料を探さねばならんか…」
最悪、敵の燃料を使う事を考える必要があった。
だが、敵の燃料を発見した、確保できたと言う報告は無い。
「そもそも敵は何処に居るのだ?」
デリーより東では少数のインド軍警戒部隊こそ出会うが、まともな敵戦力と遭っていないとシェルマンは思い出す。
「敵機来襲!空襲!」
そこへ兵士の叫び声が響く。
対空戦車であるヴィルベルヴィントなど対空機関砲の銃手を除く将兵が道の端に逃げ、木や岩、地面の窪みに逃げ込む。
「まったく、空軍は何をしとる!」
シェルマンは指揮装甲車の中で頭を低くしながら悪態をつく。
その敵機は日本陸軍のキ102もとい五式双発襲撃機だった。
偵察任務を兼ねて2機で飛行していた襲撃機は第1SS装甲師団の車列を発見すると低空飛行に移り攻撃を仕掛けようとしていた。
本来なら対戦車用の57ミリ砲を機体下部に装備しているが、制空権が確保できていない事もあり速度を少しでも上げる為として外されている。
それにより、武装無しなら600km/h近くにまで速くなった。だから五式は57ミリ砲の代わりに積んでいる50kg爆弾4発を投下する。
狙ったわけでではないが、シェルマンの周囲に爆弾が投下され炸裂する。
たちまちシェルマンの前に燃えるトラックと爆弾の破片や爆風を受けて悲鳴とうめき声を上げる兵士達が現れた。
「くそ!」
シェルマンは五式が去った方向を睨んだ。
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