第11話 木村司令が「霧島」を指揮する
司令官である木村が艦の舵取りを握った「霧島」
迫るDo217に対して左へ避ける動きに出た。
高速戦艦といえど独空母機動部隊の空襲を受け24ノットに最大速力は落ちている。
ましてや海面で受ける水の抵抗は素早い動きを難しくしている。
「逃げるつもりか。無駄な事を」
Do217の機長は「霧島」の動きを見て諦めの悪さに呆れた。
飛行機の速さに戦艦が敵うわけがないと。
「敵機がこちらへ向きを変えた!」
「霧島」の見張りは「霧島」を追うように近づくDo217の動向を報せる。
「砲術長は生きとるか?」
木村は誰にでもなく尋ねた。
「はい」
航海長が答えた。砲術長は「霧島」の艦橋頂上にある主砲射撃指揮所が戦闘時の配置でありFw190の射撃を受ける事無く無事であった。
「砲術長、狙いは大雑把でかまわんからすぐに主砲で敵機を撃て」
木村の命令を受け「霧島」の主砲が敵機へ向けて再度指向する。
それと同時に甲板から機銃と見張り員が退避する。主砲の爆風を避ける為だ。
「甲板の要員退避完了!」
「主砲射撃準備よし!」
「撃て!」
「霧島」の8門の主砲が距離2000m先の敵機へ放たれる。
ただDo217のある方向へ砲を向けただけの射撃だった。
砲術長は当たらないと思えた。
すぐの射撃をする為に調整も照準も甘い砲撃は2機のDo217を少し傷付けはしたが撃墜には至らない。
だが中のパイロットは砲弾が炸裂するただ中に置かれ精神的なショックを受ける。
「敵機近づく!あ、爆弾投下!」
「霧島」へ迫ったDo217だったが「霧島」には届かない位置から爆弾を投下してしまい命中させる事は出来なかった。
逆に再び配置に付いた機銃員が操作する25ミリ機銃により撃墜されてしまった。
「猫だましが効いたな」
木村は笑みを浮かべる。
それまで機銃員に遠慮して撃たなかった主砲をいきなり至近で撃つことで敵機を驚かせ爆撃の照準を狂わせたのだ。
「敵機4機!9時方向から近づく!」
「取舵20度!」
再び「霧島」は敵機を避けるように左へ向く。
「敵機の位置、我が艦の6時方向!」
「霧島」の転舵により4機のDo217が「霧島」の後ろから近づく形になる。
「主砲を撃ちますか?」
「いや、応戦は機銃と高角砲だけでよい」
Do217を拒否するように「霧島」から機銃と高角砲の弾幕が張られるがDo217は気にせず接近を続ける。
「敵機、爆弾倉開いた!」
「もう少しだ」
見張りの叫びを聞きDo217の位置を肉眼で確認した木村は何かを測っていた。
「よし、面舵30度!」
木村はDo217が「霧島」の艦尾上空に達したのを見て面舵を命じた。
「くそ!照準が!」
右へ針路を変える「霧島」
真っ直ぐ進む「霧島」の動きで照準を定めていたDo217の照準手は悪態をついた。
「霧島」が右へ向きを変えたので爆弾投下のタイミングが狂い海へ爆弾を落とす事になってしまったからだ。
「霧島」の左舷側の海面にはDo217が落とした爆弾による水柱が幾つも立った。
「方位4時、高度3000に敵機6機!」
Do217より一際高い位置を飛ぶ敵機があった。
Ju88爆撃機だ。
第二次世界大戦開戦から戦い続けていた古い機体だがある特性から現在も数を減らしながらも現役にあった。
それは急降下爆撃機ができる事だ。
高度3000mから40度の角度で急降下に入った6機のJu88は縦列を成すように「霧島」へ突き進む。
「双発機で急降下か」
木村は爆撃機が艦爆のように急降下してくるのを感心して見つめる。
「機関全速!」と木村は命じた。
「どちからに舵を切りべきでは?」
航海長は尋ねる。敵機の狙いを少しでもかわすには艦を敵機の切っ先から離すべきだと。
「まあ、待て」
木村は航海長をあやすように言う。
その間にもJu88は近づき「霧島」からは段々と大きく見えて来て不安を募らせる。
「回避しないのか?舵の故障か?」
「いいじゃないか。狙いやすい」
直進したままの「霧島」にJu88のパイロットも疑問を持つ。
「敵機!高度1000!」
見張りが叫ぶ。
「面舵いっぱい!」
木村の命令が下るや操舵手は舵輪を素早く回す。
「霧島」は右へ向かう。それは降下するJu88と並走するような位置に向かう事になる。
「ダメだかわされた!」
引き起こして位置を変える暇が無い位置まで降りていたJu88は爆弾を落とせず機首を引き起こす。
今度は水平爆撃を試みるが一度挫かれた出鼻はJu88パイロットの調子を狂わせ命中段は無かった。
この後も木村は近づく敵機による爆弾投下を見計らい回避運動を続けた。木村の勘による回避によって命中した爆弾は1発が艦尾の水上機カタパルトを破壊しただけに留まった。
「さすがですね。この空襲で霧島に大きな損害はありませんでした」
航海長は空襲が終わると感嘆の声を挙げた。
「なになに勘が当たっただけさ」
木村は大きな髭を右手でさわりながら言った。
「比叡はどうか?他の艦は?」
「攻撃が我が艦に集中したので比叡への攻撃はそこまで及びませんでした。爆弾2発が命中しましたが損害は軽微とのこと。他の艦には被害はありません」
木村は損害が最小限に抑えられた事にひとまず安堵した。
「敵またやって来るに違いない。対空警戒を緩めるな」
まだ一度の空襲を切り抜けただけである。
「航空隊が敵の飛行場を叩いてくれればなあ」
航海長がぼやく。
インド上空ではドイツ空軍が優勢の勢いを生かして前線を飛び回っていた。
対して日本陸海軍の航空軍と航空艦隊は戦闘機を繰り出しての防空戦または制空の戦いを繰り広げていた。
だが空域を満足に確保できている訳ではなく一部の攻撃機がゲリラ的な爆撃を飛行場へ加えるが嫌がらせ以上の効果は無かった。
「無いものねだりはいかんよ」
木村は航海長を諭す。
無い物ねだりと言う訳でも無かった。
木村艦隊が空襲されるのを連合艦隊司令部は予想していた。
だが母艦航空隊は再建途上であり第三艦隊は動かせない。
では木村艦隊を空から援護するのは不可能なのか?
連合艦隊の指揮下には第三艦隊以外にも航空戦力があるそれが基地航空隊だ。
インドに展開している海軍航空隊は第一航空艦隊と第三航空艦隊だ。
更に第二航空艦隊がセイロン島にある。
二航艦を除く二つの航空艦隊は開戦初日から陸軍航空隊と共にドイツ空軍との戦いを繰り広げていた。
その戦いは敵機との邀撃戦だ。
だが戦うのはレシプロ機で600km以上を越える速さのFw190であり最高速度が870km/hのジェット戦闘機Me262だ。
日本海軍にしろ陸軍にしろ正面切って戦うのではなく有利な状況であれば一撃離脱により攻撃して離脱すると言う方針がなされた。
だが歴戦のエースパイロットがまだ多く居るドイツ空軍相手にはそうそう思うように一撃離脱では終わらず混戦で戦うはめになっていた。
消耗し不足した戦力を二航艦から受け取り一航艦と三航艦は戦い続け押されながらも制空権を完全には手放してはいなかった。
そんな航空艦隊へムンバイ周辺のドイツ空軍基地への攻撃を連合艦隊司令部は一航艦へ命じていた。
敵基地攻撃の主力を担う陸上攻撃機は少数や単機による夜間爆撃や哨戒ぐらいしか出撃の機会が無く戦力は健在だった。
問題は陸攻を護衛する戦闘機だった。
連日の空戦で戦闘機戦力は疲弊で消耗していた。
邀撃戦を行わないのなら戦闘機戦力は出せると一航艦司令である草鹿任一中将は述べた。
連合艦隊司令部は二航艦から更に戦闘機部隊を一航艦へ一時的に編入させる事でこの問題を解決させた。
こうして一航艦は「烈風」と零戦合わせて24機に護衛された「銀河」陸爆20機の第一次攻撃隊と「烈風」28機に護衛された「連山」陸攻20機の第二次攻撃隊を出撃させた。
またムンバイより北方にあるドイツ空軍が基地にしている飛行場2カ所へも「連山」と「銀河」のを中心にした攻撃隊が送り込まれた。
露払いとして零戦六二型12機による強襲部隊が第一次攻撃隊より前に敵飛行場を攻撃する手筈になっている。
この零戦六二型とは何か?
「烈風」が零戦に代わり海軍戦闘機の主力となりつつある中で海軍は「爆撃も行える戦闘機」を三菱へ求めた。
これはFw190が戦闘爆撃機の能力もあると知ったからだとされる。
三菱は新型機として新たに設計すると回答したが海軍は早く実戦に出せる機体を欲した。
そこで三菱は既存の零戦を改造するという提案を出した。
海軍は納得し零戦六二型が作られる事になった。
爆弾は最大で250kgが1発だが主翼にはロケット弾を8発装備できる懸架装置が付けられた。
この時の出撃する六二型の機体には主翼に4発のロケット弾、機体下部に増槽が装備されていた。
黎明に低空で進行する六二型16機はドイツ軍のレーダーに映らずムンバイ近郊にたどり着くと8機づつに分かれる1群はムンバイ北方の元は英軍の飛行場だっったドイツ軍飛行場を
もう1群はムンバイ市街に近いイギリスが空港として建設して今ではドイツ空軍の前線基地となっている飛行場をそれぞれに襲いかかる。
もはや攻撃隊を1つ送り出していたが残る機体が出撃準備中の所へ六二型が襲いかかる。
まずは対地ロケット弾である五式二番八号爆弾が放たれる。
飛行場内でプロペラを回し暖気運転と確認をしている所へ放たれたロケット弾はDo217やFw190を直撃しなくても至近で爆発すると爆風と破片で出撃できない機体にさせた。
続けて飛行場の上空へ進行した六二型は20ミリと13ミリの機銃をドイツ機へ向けて撃ち穴を穿ち砕く。
六二型の編隊は2度飛行場の上空を航過しながら銃撃した。
増槽も落としロケット弾も放ち身軽になった六二型は急いで離脱する。
今度は自分たちが襲われる番だと分かっているからだ。
確かにその通りになった。上空警戒に出ているBf109が4機六二型を追いかける。
六二型は零戦であるから空戦はできる。
だが戦力消耗を恐れた草鹿中将は必要以外の空戦を禁じており六二型はBf109の射撃をかわし、離脱を図る。
Bf109の編隊は深追いを避けた事で六二型の編隊は全機がBf109からの射撃を浴びて穴を幾つか機体に空けられながらも全機帰還する。
入れ替わるように第一次攻撃隊が進出する。
六二型を追いかけていたBf109に空襲を受けて急発進するFw190が6機が第一次攻撃隊を迎撃する。
ようやく10機のドイツ軍に対して24機の烈風と零戦は銀河へ敵機を寄せ付けなかった。
この銀河も2つのドイツ軍飛行場へ向けて分かれ搭載してる2発の500kg爆弾を投下する。
落としたのは滑走路であり滑走路に穴を開きドイツ軍機の出撃を止める。
この空襲の40分後に第二次攻撃隊が到着する。
今度は他の飛行場から応援に駆けつけたFw190やBf109が合わせて24機が迎撃する。
4機しか数を上回らない第二次攻撃隊の護衛戦闘機では連山を守るのは厳しく連山3機が編隊に飛び込んで来たFw190により撃墜された。
残る13機の連山が爆撃機の拠点である飛行場へ爆弾を投下する。
飛行場は炎上し目的を果たしたと思えた連山隊であったがドイツ軍は見送る事は無かった。
「あれはジェットだ!262だ!」
2機の連山が高速で降下して来た何者かによって撃墜された。
それは連山の搭乗員がシルエットを見て分かった。
涙滴の防風にエンジンを主翼に提げた形
双発のジェットエンジンを主翼に装備しているMe262だ。
8機のMe262が爆弾を投下した連山に襲いかかる。幾ら爆弾が無くなり身軽の連山でもジェット機から見れば止まっているようなものだ。
Me262のパイロットは止まっている標的へ突っ込むように上位の高度からローリングサンダーによる降下で次々に襲いかかる。
連山は銃座から射撃を放ちながら少しでもMe262の射線から外れようと回避する。
だがそうそう大型の連山ではMe262をかわせるほど素早くはない。
護衛の烈風はどうしていたのか?
Me262よりも先に別のFw190との空戦を展開しMe262との空戦に加われなかったのだ。
この為に連山は何の援護も得られず5機が撃墜された。
連山がMe262から逃れられたのはMe262の燃料が残り少なくなり引き返したからだった。
多くの出血を流しながら行われた航空攻勢は木村艦隊を援護すると言う意味では成功をした。
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