第10話 木村艦隊ムンバイにて空襲を受ける

 ムンバイへの航路に戻った木村艦隊はムンバイの沖でUボートに発見される。

 「ここで見つかるならまだ良い。ムンバイには入港できる」

 「霧島」がUボートの発した電波を探知し木村艦隊が見つかったと分かったが当の木村は悠然としている。

  空襲で損害を受けた傷ついた艦隊で前線へ向かう航行に一抹の不安を抱えていた幕僚達や「霧島」の航海長などを落ち着かせた。

 「この司令ならなんとかやれるかもしれない」と

 一方で木村艦隊の反転を撤収だと判断して自らも撤収していたドイツ軍第2インド洋部隊はムンバイに木村艦隊が進んで来ていた事に焦るどころか喜ぶ空気になっていた。

 「空母の連中は大した事ないな。俺達が出てやってやるか」

 クメッツは第1空母艦隊への皮肉を言いながらも戦艦の出番がある事を歓迎した。

 横取りされた戦果を取り戻せる機会ができたのだから。

 「ムンバイへ針路を変えろ。今度こそ敵艦隊をやるぞ」

 意気揚々と第2インド洋部隊は反転しムンバイへ急行する。


 木村艦隊の連れて来た輸送船三隻はムンバイ港に入るとムンバイ守備軍への補給物資を降ろす作業に避難民と負傷兵の乗り込みを始めた。

 更に飛行甲板に穴を開けられた「龍鳳」も避難民の乗艦を受け入れていた。格納庫には予備機の「烈風」と哨戒機に置いてある「天山」が数機だけであり避難民を受け入れる余裕が幾らかあった。

 木村艦隊はムンバイ港の外側で敵を警戒する配置に就いていた。

 「乗船は昼前までかかりそうです」

 輸送船の作業についての報告が日の出と共に挙がってきた。

 ムンバイ守備軍への弾薬や医療品・食料の物資をまず輸送船が降ろしてから避難民の乗船となる。

 ムンバイのインド兵も協力して補給物資を降ろす作業を続けていたが避難民を乗せられる段階まで進んだのは日の出前だった。

 「空襲が心配ですね」

 「うむ。作業をできるだけ早く済ませて貰うしかあるまい」

 輸送船への乗船作業は木村がどうにか出来るものではない。待つしかない。

 日の出から二時間後に「霧島」の対空電探は敵機を探知する。

 「ここの航空隊にも報せろ」

 木村は電探情報をムンバイにある「強風」部隊にも伝えさせた。「龍鳳」が輸送船と化した今では「強風」だけがムンバイの空を飛べる迎撃機だからだ。

 ムンバイ市街に空襲警報が鳴り響く中を「強風」8機が飛び立つ。

 「強風」の搭乗員はフロートによる空気抵抗を感じながらも高度五千mに到達する。

 その時にムンバイへ迫る敵編隊の内容を見た。

 前回とは違いFw190の護衛がDo217爆撃機に付いていた。

 ここは戦闘機を攻撃して護衛の編隊を崩すところだが「強風」部隊は爆撃機へ向かう。

 Do217が輸送船や木村艦隊を狙っていると分かっていた。

 ましてやムンバイの戦闘機は八機の「強風」しか居ない。戦闘機との戦いに終始はできない。

 少しでもDo217を撃墜または撃破して数を減らすか編隊を崩して爆撃の精度を落とすのを目的に「強風」はFw190の編隊を突破してDo217の編隊へ襲いかかる。

 何機ものDo217が煙を吐き高度を落とすが「強風」はそこからの戦果拡大ができなかった。

 守らなれければならないDo217がやられて怒気を高めたFw190部隊に追われてしまったからだ。

 フロートを付けた500km/hに満たない速さの水上機では600km/hの速さを越えるFw190に敵わない。

 次々に銃撃を浴びる「強風」は一機、また一機と撃墜されてしまった。

 「強風」の脅威が無くなったDo217はムンバイ港へと進む。

 「敵編隊を主砲で撃て!」

 「霧島」と「比叡」の主砲がDo217へ向けて三式弾を放つ

 三式弾の炸裂にDo217が幾つか落ちるか損傷から針路を変えるが十四機のDo217がムンバイ港の上空に到達する。

 インド軍の高射砲と木村艦隊の艦艇からの射撃がDo217へ向けられる。

 輸送船の船員と乗船しているまたはこれから乗船しようとしていた避難民は爆弾が降ると思い戦慄する。

 避難民の中には乗った輸送船から降りようと強引にタラップを下ろうとする者や海へ飛び込む者が出るほどの混乱が発生した。

 だがDo217は輸送船の上空を飛び越えた。

 Do217が攻撃したのは「霧島」や「比叡」に「龍鳳」だった。

 ドイツ空軍は第1空母艦隊で木村艦隊を攻撃した第1艦上航空団の戦果を拡張しようとしていた。

 第1艦上航空団は空軍の部隊である。

 海軍の第2インド洋部隊が「霧島」・「比叡」・「龍鳳」に止めを刺す前に空軍だけでどれか一隻でも撃沈したいと言う思惑があった。

 「龍鳳」は輸送船と勘違いされ無視されたが「霧島」と「比叡」へDo217が殺到する。

 「いいぞ。こっちへ来い」

 木村は輸送船に目もくれないDo217を呼ぶように言った。

 「敵機がこちらを向いている限りは輸送船も避難民にも敵弾は落ちん」

 こう言う木村の意志に敵機との戦いへ艦隊の将兵は挑む。

 「霧島」と「比叡」をはじめ木村艦隊の各艦艇はDo217の気を引くように対空砲火を打ち上げる。

 あたかも木村艦隊の対空砲火に寄るようにDo217は木村艦隊へ接近する。

 「敵戦艦は手負いだ。俺達が止めを刺すぞ!」

 戦艦「長門」の攻撃にも参加したDo217の中隊長がパイロット達を叱咤する。彼らは「長門」を攻撃し一定の戦果を挙げた自負があった。

 「ここでやられる訳にはいかんぞ」

 「霧島」艦長の篠田大佐は「霧島」にはまだ役目があると自覚していた。

 避難民の乗船を終えて出港する輸送船を護衛する役目がまだある。この空襲で沈んだり大破する訳にはいかない。

 「面舵いっぱい!」

 Do217の動きを見て篠田は「霧島」を操艦する。

 木村は篠田に「霧島」を預けてその成り行きを見守る。

 「左舷に至近弾!」

 Do217が投下した爆弾は「霧島」の周りに水柱を立てる。

 「九時より敵機近づく!」

 「強風」が居なくなり持て余すFw190が「霧島」へ低空で急接近する。爆弾は無いが機銃による銃撃を「霧島」へ浴びせる。

 「霧島」の対空銃座や見張りに立つ兵士達がFw190の銃撃で倒れ甲板を血の海にした。

 「戦闘機が小癪な!」

 艦自体の損害が無いが乗員である将兵の犠牲が出てしまった。それに篠田は憤る。

 それは機銃座や高角砲の将兵も同じで仇を討とうとするがFw190はあざ笑うように離脱する。

 だが更にFw190が「霧島」へ接近する。

 そのFw190のパイロットは艦橋に機首を向け機銃を放つ。

 木村や篠田が居る艦橋にFw190の銃撃が乱打され混乱に陥る。

 「艦長!艦長!」

 Fw190が飛び去り銃撃が収まると篠田を案じる悲鳴が出る。

 篠田は銃撃を腹部に受け意識を失い倒れていた。

 「意識はある!早く医務室へ運べ!」

 篠田の脈を測りまだ戦死してはないと分かると腕を撃たれていた航海長が篠田の搬送を兵へ命じた。

 「艦長代理はこの場合・・・」

 航海長は艦長が指揮不能になり「霧島」の指揮を代行するのは誰か考える。まずは副艦長だ。副艦長の長野中佐は何処だろうかと見渡す。

 そんな時だった。

 「見張りはおるか?敵機の動きを報せ!」

 誰かが兵へ大声で命じる。

 航海長は誰かと見ると木村だった。

 篠田など負傷者の血が床に広がり負傷兵が呻く中を木村は悠然と立っていた。

 「敵機、爆撃機が十時方向から近づく!」

 混乱から立ち直り見張りの役目に戻った兵士が木村へ報せる。

 木村は十時の方向を見るとDo217が2機迫っているのが見えた。

 「航海長はおるか?取舵三十だ!」

 「はい!おります!取舵三十度宜侯!」

 航海長は木村に従う。

 この混乱状態で艦内の指揮系統の順位を守るより迫る敵に立ち向かう為に立ち直るのが先だと理解していた。

 「霧島」は木村が艦長代理となって再び動き始める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る