13話 秘密結社木梨ゆうこファンクラブ
「第一回。波戸志那乃に対する弾劾裁判を始めます」
「「「「イェアー!!!!」」」
今日も元気なクラスメイトによって、俺は教卓の前に椅子ごとロープで縛られている。
いきなり拉致で猿ぐつわ。うん。冷静になってみても狂気しか感じない。
「まずは、獅童京子先輩との関係についてですが――」
「死刑!」
一分も経たずに、戦争の勝者による一方的な司法裁判が終了した。
普通なら反対尋問とかあると思うんだ。無いんだ。
なんでトイレから脱出し帰宅しようとしたときに捕縛されなきゃならないんだ。
おかしい。いろいろなことがおかしい。
「キサマはアホか。死刑は当然。どんな刑にするのか決めなきゃならんだろ。そのための裁判だ」
当然じゃねぇよ。
それ裁判じゃねぇよ。
「続いて、いまいち色気が足りない、婚期を逃しかけているひろみちゃんを――」
クラスメイトがA4用紙に書かれた俺の間違った罪状を読み上げているときだった。
教室のドアを勢いよく開ける音がしたかと思うと、
「今私と結婚してくれるという声が聞こえた気がしたが!」
「「気のせいです!」」
名前を出すのも可哀想なあの人が、婚姻届を片手に乗り込んでこようとした。
クラスメイトの決死の排除行動によってブライダルクリーチャーは撃退されたが、男子の何人かは『っく。良い匂いだけはしたっ』と、人生を踏み外しかけていた。
落ち着け。奴はクリーチャーだ。普通婚期逃すとかで、あそこまで狂う事なんて出来やしない。
「さて、さっきのクリーチャーの件だが、一部のマニアックな同士からは反対意見が出たが、不問とする」
むしろ何を問われていたのか小一時間問い詰めたい。
「次が最後の罪だな。我らがアイドル木梨ゆうこを嫁として確保しているにもかかわらず、他の女に手を出したという――」
「意義あり!」
俺は必死に猿ぐつわをかみ切ると、精一杯の意義を唱えた。
「却下します。被告の、不倫という罪について――」
「異議ありぶほぉ」
議長役の男子から、キツいボディーブローを受けた。
拳がみぞおちに食い込む感触が、生々しかった。
「ファンクラブ会員番号1番をなめんな」
いや知らねぇよ。
アイツ貧乳とかのレベルじゃないんだぞ。無乳だぞ。色気ゼロだぞ。
風呂上がりに全裸で家の中うろつき回るし、俺のベッドに忍び込んでたと思えばすやすやと寝息をたててるし。
おまけに裸エプロンの破壊的な魅力のなさときたらもう、犯罪だ。
「と言うことでヒモ無しバンジーの刑に処す」
「それはバンジーじゃねぇ!」
「大丈夫。ヒモは無いけどコンクリはあるよ」
「それ大丈夫じゃ無いやつ。一番駄目なやつ!」
クラスに味方は居ないのかと見渡すが、皆一様に怪しい目つきだ。
どんな目つきかというと、これから汚物を消毒しようという悪漢の目つき。
っていうか女子まで同じってどういうことだよ!
「さぁ、屋上へ護送してあげよう」
議長役の男子が手を上げると、2本の長い棒が運ばれてきた。
男子がそれぞれ二人ずつ、棒の端を肩に乗せるとあら不思議。
俺の座った椅子がバランス良く設置できるじゃぁないか。
「GO」
「待てっ。これは罠だ!」
地獄行きの篭が教室から出ようとしたその時だった。
「皆、落ち着いて!」
ゆうこだった。
あぁ、今この時ほど、ゆうこが頼もしく思えた日は――。
「しなのんの罪を、許します!」
っく。殺せ。
「な、なんと。このゲスを許すというのですか!」
「王子。考え直して下さい! コイツは、王子というモノがアリながら、女生徒に手を出すという外道ですよ!」
ゆうこが静かに首を横に振った。
そして、慈愛に満ちた眼差しでクラスメイトを見渡すと、
「許すことが、妻の勤めです」
手を広げ、微笑んだ。
その眼差しはクラスメイト全員をひれ伏すことに成功した。つまり、
「うぎゃぁ!」
俺は椅子ごと床に激突することになった。
受け身の取れない自由落下だった。
「しなのん」
ゆうこは地面に転がる俺の元に近寄ると、ゆっくり拘束を解きながら言う。
「私は、いつでもしなのんの三鷹だからね!」
それを言うなら味方だ。
くどい! 弱腰ペンギン @kuwentorow
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