第12話 男子トイレの攻防
「波戸ぉぉぉぉ。私のモノになるんだぁぁぁぁ」
「だから男子トイレまで入ってくるなって言ってるでしょうが!」
ある日の昼休み。人がトイレの個室に入った直後、扉を叩く音共に変態――獅童京子先輩の声が聞こえた。
繰り返すが、男子トイレだ。ここ男子トイレなんだ。
「一回だけで良いから、一回だけでも!」
「此所でそんなこと叫ばないでください!」
他にいたであろう男子の足音が聞こえた。
絶対変な噂を流される。俺に何の恨みがあるんだ……。
「一回やってみたら解るから。きっとはまるから!」
さてどうやって逃げようか。
隣の個室に移動するのも、扉をぶち破るのも難しいだろうな。
だって扉一つ隔ててエネミーが居るから……。
「波戸ぉぉぉぉ! 私の何処が悪いんだぁぁぁ!」
ガタンバタンという音を立て、獅童先輩がドアをよじ登ってきた。
ドアの縁に手をかけると、ゆっくりと顔を出した。
どこかの漫画のようにゆっくりと。そして俺を見つけると『ニタァ』と笑う。
「そういう所ですよっ!」
何このホラー。
「にぃがぁすぅかぁぁぁぁ!」
がさごそと個室に侵入してくる先輩。まるでG……。
「っく」
先輩は羽を広げて今にも飛びかかってきそうだった。
覚悟を決めるしか無い。
「どりゃぁぁぁぁ!」
俺は思いっきり扉を開けると、個室から脱出した。
いけるはずだった。先輩は上に乗ったままだ。だから俺の進路を防ぐことは出来ないはず。
そのはずだった。
「にがさんぞぉぉぉぉ!」
獅童先輩が、飛んだ。
ファンクラブがあり、女神とまで呼ばれている先輩が、スカートを翻して。
パンチラどころではない。めくれ上がったスカートの中から黒いストッキングに包まれた白いパンツが見えたが……。
「色気が無ぇ……」
どう猛な肉食獣にしか見えない美少女が、空を飛んだ。
ゆっくりとこちらを振り向くと。
「サァ、ワタシノモノニナルノヨ」
何このクリーチャー。
入り口をふさぐ先輩にやられる。そう思ったとき。
「先生、此所に変態が!」
誰かの助けが来た!
「波戸が女の子を襲おうとしてます!」
違った、敵だった!
「何っ。私はまだ名前すら書いてもらってないのに!」
しかも敵は複数だった!
「ちくしょぉぉぉぉ。ろくな奴らが居ねぇ!」
周りを見渡しても逃げ場が無い。
いや、獅童先輩を何とか……してもあの教師か。
後はトイレの窓だが、施錠されているしちょっとしか開かない仕様。無理だ。
「「波戸ぉぉぉぉぉ!」」
二匹のケダモノの声が重なる。
脅威から逃れるすべは――個室に籠もることだった。
だが無駄なのは解っている。奴らは上から進入してきやがる。
それでも時間を稼いで、騒ぎが広がれば助けが……。
『おい、波戸が男子トイレに女を連れ込んでいるらしいぞ!』
『しかも獅童先輩とひろみちゃんだとか』
『何っ! 学園のアイドルとエロさが足りない女教師だと! けしからん!』
『出てきたら抹殺だな!』
この学校、ダメだ。
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