第9話 作れる物なら

 俺は自宅に帰ると部屋に荷物を置き、ベッドに寝転んでぼーっとしていた。

 最近では変な人に絡まれることが多くなったなぁとか、いい加減、

「しなのーん」

 と、鍵をかけた部屋になぜか入ってこれるゆうこを縛り上げるのも面倒だなぁとか、そんなことを考えながら。

 縛り上げたゆうこを部屋の外に放り出し、宿題があったことを思い出して机に座る。

 数学の教科書を広げると、ノートに答えを記入していく。

「へぇー。しなのんってやっぱり頭良いんだねぇ」

「いや、学校でやってれば解ることだから」

 学校でやった事を家でちょっと復習するだけ。10分もかからない。だって、今日答えを聞いてきたんだから。

「そんなことないよぅ。私解んないし」

 ゆうこが俺の背中に抱きついてくる。うん。堅い。

 どうやら上着を犠牲に脱出したらしく、細く白い腕が見える。意外と華奢なんだよなぁとは思うが、何もぬりかべにしてやらなくても良いと思う。

 頭のネジと柔らかさを奪うなんて、神様は残酷だ。

「ねぇねぇ、なんで私が半裸なのか、気にならないの? 興奮しないの?」

「あー、興味ないなぁー。あと興奮させる気ならCになってから言え」

 想像して欲しい。台所に並ぶまな板に興奮するだろうか?

 堅い、まな板にだ。

「そんなことよりさぁしなのん。お願いがあるんだけど」

「料理当番なら代わりません」

「えー。だってカレー難しいんだもん」

 ビーフストロガノフ作れる奴が何を言う。

 餃子を一個10秒で包める奴がカレーの調理方法が解らないなんて事は無いだろうが!

「ジャガイモとニンジンとタマネギをミキサーにかけて、お湯を沸かしてカレー粉と一緒に入れればOKだから。作ってらっしゃい」

 素人でも安心安全なカレーの作り方だ。肉が入ってないとか固形物が無いとかは問題じゃ無い。

 食べられるものが出てくることが一番だ。

 母さんが作ったときなんか全部皮ごと中は生。カレーは一箱使い切ったために鍋が駄目になるという……。

 思い出すだけで体が震える料理が出てきたことがあった。

「ねぇしなのん。私、今日、大丈夫だよ?」

「そっか。ちゃんと米を炊くの忘れないようにな」

「むー。もう少し嫁に対するリアクションをしてくれても良いと思うんだけどなぁ」

 俺は誰の婚姻届にも名前を書いた覚えは無いんだが。

「ねぇしなのん。私ね、考えたんだけど」

「余計なことだよ」

「子供の名前は、って余計なことじゃないよ!」

 いや余計なことだ。

 居もしない子供の名前なんて考えなくて良いことだろう。

「じゃぁーしなのんが勉強がんばれるように、私ここで応援します!」

 抱きついたままなのが、一番邪魔なんだが。

「えっとねー。じゃぁねぇー。子供の作り方!」

 抱きついて楽しそうにセクハラをしてくるゆうこの手をそっとはがす。

「勉強の、邪魔しないでくれ」

 俺はゆうこを手近にあったロープで縛り上げる。

「もぅ。本日二回目の緊縛プレイなんてっ。マニアックよ!」

 と世迷い言を言うゆうこをリビングまで運んでおいた。

 これで少しは静かになるだろう。その間に勉強を終わらせておけば、時間は作れる。

 最悪、自分で飯を作ろう。

「はぁ」

 出来たら、ため息をつかなくて良い日が作りたい。

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