第7話 ラノベの主人公にはなぜ死亡フラグが立ちやすいのだろうか?
瑞鳳春香に言われた言葉は、不思議に心にいつまでも引っかかった。
正義? お前らはそんな事を言えるような連中なのか?
でもひっかかる。何時ものように無表情だが本気で言って来た「正義」の意味。
それに自分は何も答える言葉を持っていなかったのだ。
あんなの僕を混乱させて迷わせようと言うおためごかしの類にすぎないと思う。
でも……
なんとなく、すっきりとそうは思えなく、そのもやもやした気分を抱えたまま学校を出たらそのまま歩き続け、そしていつの間にかたどり着いていたのが荻野学園駅前であった。
今日、ここに、何か用事があるわけでも行きたい所があるわけでもなかった。しかしこのもやもやを抱えたまま下宿に帰る気にはなれなかった。
もし、このまま下宿に帰って、おばさんに「今日は早いのね。部活無かったの」とか言われたら、それでもう心のバランスが崩れてしまいそうだった。心の中に浮かんで来る、もやもやとした思いを、なんとか押さえつけているのが今の僕は、そんな、気を使って行ってもらったちょっとした一言でどっと落ち込んでしまいそうだった。
だから、このまま下宿に帰ったら、本当にそうなりそうな気がして、僕はこの駅前に時間をつぶしに来たのだった。
とは言え、潰しに来たと言っても、帰ってから食事する(しないとやっぱり疑われる)のだから食堂系の所に入る気はしなかったし、コーヒーショップ系は一人で入る時はリンゴのマークがついたパソコンを出していないと追い出されると田舎から出るてくる時に去年出稼ぎで都会に出ていた近所のおじさんから脅かされていたので、そんなもの持っていない僕はどこも店に入る事ができなかった。
なので僕は宛も無く駅前の通りをうろうろとしたのだが、気がつくと、路地に入りしばらく適当に歩いてるうち——見事に道に迷ってしまっていたのだった。
考え事して歩いていたので、正直、駅の方角がどっちだっかさえ分からなくなってしまったような状態だった。
「まずいなあ」
もう、直ぐ帰らないと、今度は遅すぎて下宿のおばさんに色々と聞かれてしまうかもしれない。そうしたらやはり自分の中で押さえつけているものが表面に浮かんで来てしまうかも知れない。
そうならないように、いろいろと気をつかわせないように、そろそろ帰らなければならないのだが……
しょうがない。
また高い所にでも昇って、方向を確かめようかと思ったとき、
「ごめんなさい!」
女の声。
何か焦ったような雰囲気の謝罪の言葉が聞こえて来た。
「おい、女、謝りゃ済むって話じゃないんだよ」
どうも、謝罪と言っても、尋常なレベルのやり取りではなさそうな感じだった。
放っては置けなさそうなその様子に、僕は声のする建物の裏側へこっそりと近づいてみた。
家と家の間のブロック塀に飛び乗って、その先に抜けると、そこは小さな寂れた感じの公園だった。
「ごめんなさい」
滑り台の横の砂地に、女性が直接土下座して、二人の柄の悪そうな男たちに頭を下げていた。
「そんな風に謝られても困るんだよね。俺たちが欲しいのは謝罪じゃなくってさあ、どうやって保障してくれるかって事なんだよね」
「おい、こら。分かってるのか女」
「はい。分かってます。申し訳ありませんでした」
「だ——か——ら——。謝ってもらってもどうにもならないって言ってんの。分かってるのあんた?」
「——分かってます」
「ならよこさなきゃ行けないもの分かってるでしょ。金だよ、金」
「金だ。こら。金だ」
「はい」
「なら、直ぐに貰えないかな。僕ら、当てにした金が入ってこなかったので生活こまっっちゃうんだよね」
「いくらでしょうか」
「そうだね。三十万くらいかな」
「——そんな。一人から一万ずつ貰う約束で、十人くらいしか客はいなかったはずで」
「ああん、まったくガキはこれだから分かってない」
「こら、ふざけんじゃないぞ女こら」
「あんたねえ、俺らが何失ったか分かってる? 何逃したか、そこんとこ?」
「…………」
「——信用だよ。信用。顧客の皆様と気付き上げた信用。それってもうプライスレスなんだよね。三十万っていっても随分と負けてやってあげているんだけどね——ああ、良いよ、別に。払ってくれないんなら、お嬢ちゃんが今までやってた事を洗いざらい学校に教えてやるだけだから。そしたらもう萩野学園にはいられないだろうね」
「いえ、それは困ります。金は作ります。なんとか、それだけは、止めてください」
荻野学園?
公園は薄暗く、土下座をして顔を伏せている女性の顔はよく見えなかったのだが、僕は、荻野学園と言う言葉で、今目の前にいる女性がだれなのかがピンときたのだった。それは岩切里佳。昨日、ハル先輩に出し抜かれ悔しそうな捨て台詞を残していなくなった女生徒だった。
そして、もう一つピンと来た。ハル先輩が昨日この女性の事を美談の主人公と言っていた事の意味を。そうだこの人は、掲示板に貼っていた(ホワイト)新聞部の新聞に書いてあった家族の病気を乗り越えて学業を続ける事になったあの美談の主だ。
そんな人が、ここでなぜこんな連中と……
「ああ、そんな風に作るなんて言われて何時までまっていれば良いのかな。俺たちは? 直ぐに遊ぶ金が欲しいんだけどなあ」
「と言われても。無いものは……」
「何! おいこら女!」
「……申し分けありません。ちょっとだけ待ってください」
「だーかーらー。謝られてもどうしようもないって——何度言わせるんだこの女!」
男はしゃがみ、頭を下げていた岩切里佳の胸ぐらを掴み顔をあげさせてひどく凶暴な表情で睨んだ。
「そうだ、お前身体売れよ。スケベなオヤジ紹介してやるからさ。そしたら直ぐに金できるからさ——」
男は獣のような目で岩切里佳の事を睨めていた。理性ではなく、欲望のまま。この男本人が、今にも彼女に襲いかかりそうな勢いだった。
僕は事情が分からず隠れて様子を伺っていたのだが。
もう我慢の限界だった。
僕は思わず公園に飛び出すと、
「お前ら、うちの高校の生徒相手に何をしてる!」
とタンカを切る。
すると、
「「はあ?」」
二人の男は、僕を値踏みするようにじろじろと見て、スカウターで戦闘力を見切ったみたいな顔になると、
「おいおい、どこのヒーローが現れたかと思ったら、荻野学園のお坊ちゃんかよ。はいはい、悪い事言わないから、失せな。今なら見逃してやるから」
「俺らはなこの嬢ちゃんに大人の常識を教えてるとこなんや。子供の出る幕じゃないんだよ。商談なんだよ、こら」
と僕に脅しをかけて来る。
正直、大声でタンカ切るだけで、こいつら逃げ出してくれないかと僕は思っていた。
商談とか言い張られて腹が立つが、——そんな事をいくら言い張っても、どう見ても世間様に知られちゃマズいような内容の話をしていたんだろう。
だから、誰かが彼らの話を聞いていた、この後に警察でも呼ばれるかも知れない、と思っただけで退散してくれるのではないかと思っていたのだった。
しかし、彼らは僕を見て、こいつなら組み易しと思ったのか強気の反応できたのだった。
「あんた何しゃしゃり出て来てるのよ。何でも無いのよ。放っておいてよ」
岩切里佳は恐怖の表情で僕を眺める。
「余計な事しないでよ、何も知らないで、何ヒーロー気取りで出てきてるのよ」
ヒーロー気取り。
そうかもしれない。
でも僕は、自分の激情を抑える事ができなかった。
岩切夏美がどう思おうと、自分は自分がすべきと思う事をしないではいれないのだった。
自分がやろうと思う事を、やらなければならない事をしないなんて、それって自分自身を自分で殺してしまっているのと同じだと思った。僕は、そんな事を受け入れる気はなかった。
だから、俺は叫んだ。
「ここは俺に任せて先に行け!」
あれこのセリフまずったかな。
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