試練は続くよどこまでも

(1)



「わかりました。めぐみさん、お付き合いをお受けします」

「あ、はい。お願いしますでございますです」


 ようやく龍之介さんに交際を認めてもらえてほっとした私。

 しかしそれもほんの束の間のことだった。


「ただし」

「ただし……?」


 ちょっと待って。

 今不穏な単語が聞こえたんだが。


「僕は、この思いの丈を猫神様にぶつけます」

「そ、それは不義理な人と思われますよ?」


 動揺を隠せない私はすぐに首を振って否定する。

 しかし龍之介さんも譲らない、という強い意志を瞳に宿していた。


「不義理をはたらく前からこの身は……この僕の心は、猫神様のものなのです!」

「ううっ」


 どうしよう、眩しい。

 彼の背から後光が差している。

 しかもこのまっすぐさが、自分の恋心より強く芯のあるものに思えて、なお辛い。

 だが! ここで譲ればせっかくの恋人という立ち位置が揺るぐ。

 後々嫁に、とか思っていた私にとってそれは大きな痛手だ。


「妻に? なりません」


 突如、龍之介さんは鬼の形相となって首を横に振った。

 というか、いつの間に読心したのだ……。


「僕の心は生涯猫神様のためと。猫神様にしか添わぬと決めています」

「な、なんですって……!」


 驚愕。

 生涯猫神様のため、って言った……!

 それじゃあ、最初っから妻もちってことと一緒じゃん!

 私は唇を噛みしめて考える。

 これはきっと、考え方の問題だ。

 まだ龍之介さんは猫神様とそういう関係になってないじゃん?

 ってことはだよ。

 彼の意中の相手に私がすり替わればいい!

 いやあ、我ながら姑息だ。分かっている。

 でもさ? 恋に一生懸命なだけだもん、私。


 開き直れば女は強い。

 私は心の中でほくそ笑みながら次の手を繰り出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る