第3話
(う、うわっ…!)
本当に泣いていた。
龍之介さんが、真珠のような涙をぽろりとこぼしましたよ。
急に己の吐いた嘘に、罪悪感を感じてしまう。
「な、泣かないで下さい。
さっきも言った通り、私、びっくりはしましたが後悔はしてないんですから。
龍之介さんは、その…すごく優しかったですし…」
ひしひしと募る罪悪感に押しつぶされそうになりながら私がそう言うと、龍之介さんは小さく首を振った。
「僕は酷い男です。
僕には愛する人がいるのに、欲だけであなたを抱いてしまった…」
な、なんですと!?
『愛する人』がいるですと?
そんなこと、初耳なんですけど~~~!
「だ、誰なんです?
愛する人って…」
「それは……」
当然ながら、龍之介さんは言いよどむ…
「龍之介さんには話す義務があると思います。
私を欲だけで抱いたんですから…!」
強気にそんなことを言ってみたら、龍之介さんははっとしたような顔をして……
「僕が愛しているのは……」
誰よ、誰?
まさか、ここで緑川姫香だなんて言うんじゃないでしょうね!?
私は、ドキドキしながら、次の言葉を待った。
「……猫神様です。」
「え…!?」
猫神様って…玄関で会ったあのきれいな人……?
「僕は、ある時出会った猫神様に一目惚れしました。
ですが、猫神様は僕のことなんて相手にもしてくれませんでした。
でも、どんなに冷たくされても、僕は猫神様を諦めることは出来なかった。
だから、まずは文さんに弟子入りし、ここに住み着くことにしました。
お忙しい猫神様はここを空けてばかりですが、たまに会えるだけでも僕は嬉しかった。
それに…いつか、振り向いてもらえるんじゃないかという甘い期待もありました。
でも、会う度に言われるのは、恋人を作れだとか、早く身を固めろということばかり。本当に辛いことです。
……僕だって、心の底ではわかってはいるんです。
猫神様が僕なんかに振り向いてくれないことは…
何度も諦めようとしましたよ。
ですが、やっぱりだめなんです。
僕は、今も少しも変わらず猫神様を愛してる…気が狂いそうになるくらい、猫神様のことが好きなんです!」
龍之介さんの言葉には熱がこもっていた。
眩しすぎる程真っすぐで、「本気」と書いてマジに猫神様を愛してるんだということがはっきりとわかった。
でも、猫神様って…
「あの…猫神様は女性なんですか?」
私はつい気になったことを質問してみた。
「性別なんて知りません。
僕にはそんなことは関係ありません。」
「じゃ、じゃあ…BLでもOKってことですか?」
「もちろんです!」
熱い…熱いよ…
龍之介さん…クールに見えて、本当はむちゃくちゃ熱い人だったんだ。
いや、それだけ、本気で猫神様を愛してるってことか…
そう思うと、なんだか私は無性にジェラシーを感じてしまった。
「……そんなに猫神様を愛しているのに、あなたは私を抱いた。
そんなことをしたあなたを、猫神様はどう思われるでしょうか?
猫神様、今朝、帰って来られましたよ。
きっと、今頃は文さんから私達のことを聞かれてるはず…」
「そ、そんな……」
意地悪な私の言葉に、龍之介さんは顔の色を失い、唇を震わせた。
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