女は度胸

第1話

「……なるほどな。龍之介さんらしいな。」


「どういうこと?」


泣きすぎて垂れて来る鼻水を豪快にすすり、私は蘭丸に質問した。




「龍之介さんはああ見えてとても食えない奴だからね。」


「食えない…?」


蘭丸は、私を見てふふふと笑う。




「つまり、彼の言葉や態度は、真実じゃないってこと。」


「真実…じゃない…?」


蘭丸は大きく頷いた。




「少なくとも、龍之介さんはめぐみに好意を持っている。

そうじゃなかったら、はっきりと交際を断ってる。」


「でも、それは緑川姫香を諦めさせるためとか、文さんに早く恋人を作れって言われないようにするためだって…」


「それが、嘘だって言ってるんだ。

緑川姫香には、もう何十回も嫌いだって宣言してる。

それでも、彼女が諦めないことも知ってるし、今更、何がなんでも諦めさせようなんて思っちゃいない。

それに、文さんの言うことなんて、気にもしてないさ。」


「そ、そうなの?」


「つまり、龍之介さんって人は口と腹が違うんだ。

文さんに憧れて弟子入りしたとか言ってるけど、それだって本当かどうかはわからない。」


言われてみれば確かにおかしな話だ。

文さんに弟子入りして、龍之介さんは一体何を学ぶって言うんだろう?

人間にはあやかしのようなことは出来ないんだし、あやかしに弟子入りする意味が分からない。




「だから……」


蘭丸は私の目をじっとみつめ、優しく肩に手を置いた。

な、なんだ、このきゅんきゅんするシチュエーションは…




「めぐみは、もっと積極的に行かなくてはな。

龍之介さんを押し倒すくらいのことはやらないと…!」


「お、押し倒す…?」


蘭丸…なんて過激なことを言うんだ!?

これでも、私はうら若き乙女だぞ!




「そうだ、めぐみの気持ちを伝えるにはそれしかない。」


「で、でも、そんなことしたら…

龍之介さんにドン引きされない?」


「おそらく、大丈夫だ。

本当にいやなら、緑川姫香のように蹴り出されるだろう。

龍之介さんは、そういうところははっきりしてるから。」


「えっ!?緑川姫香は蹴り出されたの?」


「そんなことは何度だってあったぞ。

それでも諦めないあたりが、あの女のすごいところだけどな。」




何度も蹴り出されても諦めない?

そんな風には見えないけど…

あ、でも、一度失敗したのにも関わらず、マカロンに催眠剤を仕込むあたり…確かに懲りない奴だ。

さすがに、そこまで鋼のハートだったとは知らなかったけど。




そっか…それじゃあ、私だって、一度や二度失敗したってそんなの気にすることないんだ…!



そう思うと、すっかり萎えていた私の心に、再び闘志の赤い炎がめらめらと息衝いた。











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