(3)
*
「うむ! 今日の菓子は美味しいにゃ! なにより形がキレイにゃ」
猫の姿に戻った文さんは早速私が持ち込んだお菓子を頬張っている。
「はい。前回失敗したから、形にこだわって」
私は頷きながら十数個並んだ色とりどり形様々な練り切りを眺めた。
「…………」
「え、えっとー」
隣をそっとうかがう。
そこにはまるで瞑想中の武者のような険しい顔つきの龍之介さんが座っていた。
目は開いていない。
「低血圧なんだにゃ。気にすんにゃ」
「は、はあ」
「…………」
気まずい!
よくよく考えれば龍之介さんとこうして近くにいるのも初めてか久しぶりのことで。
「む。お茶がないにゃ。九太郎も蘭丸もいないとなると不自由だにゃあ」
「え、ぶ、文さん?」
「ちょっと席を外すにゃ」
すたすた、と文さんは歩いていく。
給仕がいないからと主がわざわざお茶を汲みに行くらしい。
「…………」
「ま、まさか」
読者の皆様、お待たせいたしました。
ようやく本命の彼とツーショットでございます。
「…………」
「えっと、龍之介さーん?」
でも、どうすればいいのかわからないでござるそうろうたてまつる。
混乱がどこまでも突き進む。
「…………」
「寝てるんですかー?」
「…………」
声をかけても返事がない。
さて、ここで問題。
私はどうするべきでしょうか?
一、 押し倒す
二、 唇を奪う
三、 抱き着く
四、 何もしない
何もしないのはもったいなさすぎる。
だからと言って、こんな白昼早々に押し倒すのは論外だろう。
第一文さんに見つかる、見られる。
ハズカシー!
ここで、では残されたのは唇を奪うか抱き着くか。
ふっと横に正座で座っている龍之介さんを伺った。
端正な顔。
すっと引かれた薄桃色の唇。
さらりと流れる髪。
長いまつ毛に細い首、体躯。
そのすべてが美しく、まるで芸術作品のようだった。
一か八か。
常識はあれど、私も肉食女子の端くれ。
後は野となれ山となれ。
私は彼の顔に近づいて――。
――頬に口づけをした。
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