(3)
*
「ひっどい身体だにゃあ」
「しょうがないんだよー」
私は九太郎の(肌にタオルを巻いた)腕にしがみついて文さんと龍之介さん、そうあの龍之介さんが住むお宅にたどり着いた。
大事なことなので龍之介さんの名を二回言いました。
そして文さんに面会するなり昨日訪れた奥の部屋に案内されたものの、ふらつく身体に滑る九太郎の腕(タオル意味なかった。それだけ彼の腕……というか身体はツルツルヌルっとしているのだ)を借りたがあちこちに身体をぶつけた。おかげで部屋に到着するころにはひどい状態になっていた。
あちこちあざだらけ。
これじゃあお嫁にいけないよ、龍之介さん!
「お前、懲りてないんだにゃ」
「はい?」
起きてからもう三十分以上経つというのにまだ目が覚めない。
ぼやける視界に映る文さんは、しかしあからさまに呆れていた。
「見たぞ」
「何をでしょう」
「九太郎から受け取った。マカロンにゃ」
「あー、ボイン様からいただきまして」
働かない頭。
ライバルの名すら出てこず、唯一フラッシュバックした豊満な胸元を伝える。
「緑川姫香だにゃ」
「はい。彼女にもらいました」
「味は?」
「ふつう……だったかな?」
「不安げだにゃあ」
文さんは首を傾げる。
「いやあ、三つあったうちの一つを食べたとたん眠っちゃったらしくて」
「だろうにゃ」
「よっぽど気疲れしてたんだろうなって……って、あれ? だろうにゃ?」
「これには強い催眠剤が入っているにゃ」
「は」
私は思わずその場に固まった。
それまで半開きだった目も、大きな丸い形に早変わり。
それだけ驚いたのだ。
「催眠剤?」
「睡眠薬みたいなもんにゃ。即効性のものらしいがにゃ」
「まさか」
「だろうにゃ」
文さんは私の応えににゃにゃにゃ、と笑った。
いや、笑うところじゃないよね。
睡眠薬を盛られた?
わ、私殺されるところだったとか……?
「いや、それはないにゃん」
「え?」
「致死量は入っていないにゃ。風薬より少し強いくらいにゃん」
「あ、そう」
よかった、ような。
よくなかったような。
「恐らく、緑川姫香は渡す相手を間違えたんだろうな」
「はい?」
今度こそ意味が分からなかった。
続きを促そうとしたが、しかしちょうどそのタイミングで玄関のチャイムがちりんとなった。
そうだった。この家はインターホンじゃない……。
「九太郎、誰にゃ?」
「緑川様でござい」
「そうか。連れてまいれ。ついでに龍之介も呼ぶにゃ」
「はいー」
龍之介さんに会える!
途端に私の身体はポカポカしてきた。
ようやく血がまともにめぐり始めたようだ。
「現金な奴にゃ」
そう言っているうちに龍之介さん、緑川さん、そして九太郎がそろった。
緑川さんは申し訳なさそうに私を見つめている。
「マカロン、龍之介さんに渡すのと間違えました」
「にゃは、こいつはドジにゃん」
文さんには良くしてもらっているうえで、心の中で突っ込んだ。
ちょっと黙って。
それかこの現状を説明して――と。
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