燃え上がる闘志

第1話

「あ、あらためて、ご挨拶をば…

おいら、この家の居候…九太郎と申します。」


河童はひきつった顔をしてそう言うと、ぺこりと頭を下げた。




「あ、ど、どうも。」


同じように頭を下げて…まじまじと九太郎を凝視する。

……すごい…どこからどう見ても河童だ…

伝説で聞いていた通りに、頭には丸い皿があり、背中には甲羅があった。

身長は私よりけっこう高くて、成人男性の平均くらい。

手や足には、水かきがついている。




「おいらの家を掃除して下さって、本当にどうもありがとうございます。

おかげさまで快適に暮らせそうです。」


「い、いえ…でも、ずいぶん汚れてたわね。」


「ええ…この家にはずいぶん長い間、人が住んでませんでしたから…」




ん?どういうことだ?




「あんた…自分で掃除はしないの?」


「そんなこと出来ません!

居候の家は、ご主人様に掃除していただくものと決まってますから。」


「そ、そうなの?」


なんだ、そのおかしなルール…

わけがわからなかったが、そもそも河童が居候だってこと自体、わけがわからないんだから、訊いたって無駄だろう。



「とにかく、掃除済ませるから、待ってて。」


そう言って、私は亀の子たわしのパーム繊維がちびるほど、一心不乱に井戸を磨き続けた。

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