(3)
「こなくそー」
私は棚からおろしたばかりの亀の子たわしを握りつぶさん勢いでつかみ、そのチクチクさに思わず涙していた。
こうでもしなきゃ、悔しさの涙は流せない。
勝気な性格の仇であった。
簡単には涙は流れ落ちない。
「無駄に美人コンクール三位に入ったと思うなよ。これでも私はすごいんだぞ」
手の中のたわしを水に濡らせば必死になって庭の井戸をこすっていた。
コケだらけの石積みで作られた井戸。
確かに汚れで汚らしくなっており、これだと井戸の水を飲もうとは思えなかった。
とにかく。
私は亀の子たわしと一体にならん限りの威力でごしごしごしごしと井戸を磨いていた。
「私はっ! 腕相撲大会で男子に勝って三連覇果たしたんだ! 小学生の時に。
それに! 漢字テストじゃいつも万点取って褒められたし。百ます計算は誰にも負けなかったし。握力も女子の中じゃ一番だったんだぞ!」
「あのう」
「中学じゃあ肝試しの先頭をいつも任されていたしっ。高校じゃあ、告白されたんだぞっ! その数、十は超える! 女子高だったけど!」
「すみませぇんがぁ」
「大学じゃあモテてモテて、それでも飽き足らずに略奪だってしてきた私にっ!」
「申し訳ありませんがぁ」
「何か問題でもあるのっ?!」
「ひいぃっ」
さっきから私の肩をポンポンと叩くものあり。
そしてその肩だけがなぜか湿っている。
「だれだっ」
「す、すみませぇん」
鬼の形相で振り向けばそこには緑の塊がいた。
違う、河童だった。
河童の九太郎だった。
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