(2)
「さーて、私も負けじとアタックを……」
「あら、東雲さん……じゃないですか?」
「……はあ」
我が家の前で鍵を扉に差したところで声をかけられた。
誰だろう、と振り向けば……。
「ま、眩しい……目が……目がぁ……」
「あらあら、面白い方ですわ」
後光のさした絶世の美女が立っていました。
栗色の長い髪はフワフワと綿雲のように柔らかそうに波打っている。
少し太めの眉も大きな瞳も何より真っ赤な唇も。
何一つ彼女の美を損ねず、むしろ美しさを際立たせていた。
そしてなによりその美女はたいそうなボインで……。
「あ、風呂敷を落とされましたよ」
そう言って彼女が屈めばその谷は深く刻まれ。
――すごいボインちゃんなのにゃん……。
文さんの言葉が脳裏によみがえる。
「はい、どうぞ」
「ああああああ、ありがとうううううう、ご、ございままますすす」
「どういたしまして」
極めつけは口元から覗く白い歯。
(どうしよう、生まれ変わっても敵いそうにない!)
私は衝撃で打ち震えていた。
い、いや……これは武者震いなんだから。
闘志に燃えて震えているだけなんだからっ。
そ、そうだ。心だ。
人間、心で負けなければ愛は勝ち取れ――。
「引っ越し祝いの贈り物をと思いまして参りました。緑川姫香と申します。持参してまいりましたのは、わたくし特製のマカロンなのですが、お口に合いますか……あ、マカロン、お好きですか?」
「……おう」
私は必死に笑顔を作って見せる、が……。
どうしよう、今日ほど笑顔を浮かべるのが苦痛で大変だったこと、ない!
「よかったあ」
嬉しそうに手を合わせる姫香さん。
ああ、そんな風に手を合わせるとお胸元が……眩しいです。
そして、私は心の中の岸壁で叫んでいた。
(どーしよ……心でも勝てる自信がなくなってきた……そしてマカロン!)
私は彼女がさし出した小さな紙袋を震える手で受け取った。
一つ呼吸をして改めてお礼を言う。
「ありがとうございます……。そうだ、お時間あれば入りますか? 引っ越してきたばかりで散らかっていますが」
「お気遣いありがとうございます。ですが」
一拍置いて、目を伏せ頬を染めながら、囁くように告げた。
「隣にお住いの龍之介さん、というわたくしの想い人の方に、マカロンを差し入れしなくてはなりません」
(マカロン!)
マカロン。
それは幸福の味。
そしてイケメンの大好物……。
「…………」
「あ、あの?」
「いえ、大丈夫、その……」
「はい……?」
私は自分の気持ちとはまるっきり正反対のことを言った。
「行ってらしてください。ファイトっ!」
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