(2)


 この広い、ひろーい猫神邸を案内してくれたのは、しかし猫神ではなく猫神の代理、らしい。

 詳細は省く(というか説明してくれても理解ができなかった)が、なんでも猫神様のいくつもある別邸という名の根城の一つらしく、その管理を任されているのがこの猫――名を文左衛門というらしい。略して文さんと呼べ、と言われた。了解――文さんなのだとか。猫神様への言伝係でもあるらしく

「なにか伝えたいことがあったら儂にいうにゃん」

と言われた。


 できることなら伝える用ができないことを祈る私だった。




 *




「……お前、聞きたいことがあるんだろう、違うかにゃ?」


「ま、まっことその通りでございます」


「答えは否、にゃ」


「何も聞いてないのに!」


 私は改めて文さんに向き合って尋ねる。


「龍之介さんって、もしかして文さんたち同様妖の類なんですか?」


「にゃあんだ、そんなことか」


 はあ、とため息をつく文さんはつぶれたお菓子に手を伸ばす。

 私の記憶が正しければこれで四つ目だ。


「あー、あいつは……いや、知らない方がいい」


「そんな! もったいつけておきながらその答えはないでしょう!」


「そうか? にゃにゃ、じゃあ要求その二。龍之介含め儂たちのことを根掘り葉掘りと詮索するなかれ」


 がーん、と雷に打たれる思いだった。


 な、なぜに。


「文さんのことはともかく、なんで龍之介さんもダメなんですか! 身勝手すぎます!」


「身勝手、にゃ?」


 その言葉に文さんは眼光を鋭く私に向けた。

 その強さ、射ぬかん如く。


「すでに分かっているだろう? 儂たちとお前は違う。互いの理(ことわり)を侵せば相応の罰が下るにゃ。ゆめゆめ忘れるにゃよ」


「ぐう」


 正論、なのだろうか。

 しかし言い返せるだけの知識も知恵もない私はただ「はぁい」と不承不承頷くしかできなかった。

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