猫神邸にて

第1話

(うわぁ…)



玄関は、まさに旅館のそれ。

ずらっと並んでるはずの仲居さんがいないことがむしろ不思議なくらいだ。

大きな木の衝立の向こう側は、ぴかぴかに磨き上げられた長い廊下…

長いよ~!

雑巾がけしたら、息が切れそうなくらい長いよ。




(……って、あまりに長すぎやしませんか?

そりゃあまぁ三階建てのそれなりに大きな家ではあったけど、それにしてもどんだけ長いんだよ…こんなに奥行きあったっけ??)



そんな疑問を感じつつも、それを口にするタイミングが計れない。

件の猫は、私の少し前をひょこひょこと歩いてる。



(それにしても、大丈夫なのかな?

こんなところに入ってしまって…って、入ってからそんなこと考えてももう遅いか…

それとも、今から引き返す?

……そうだよね…しゃべる猫なんて普通じゃないもん。

こんなのに関わったらろくなことにならない。

そうだ…引き返すなら……待てよ……私は、この家の隣に越して来たんだ。

だったら、今ここで引き返したとしても、なにがどうなる?

こやつがうちに来ようと思えばすぐに来れるんだ…

そう…だったら、今、逃げても意味はない…)



長い廊下を歩きながら、私はひとり葛藤し、そしてようやく諦めがついた頃…

猫は、おもむろに立ち止まり、ふすまを開けた。



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