(2)

 *


「……えっと」


 表札にはかすれているがきちんと名前が書かれていた。

 が。


「猫神、さま?」


 表札には「猫神様のお家」と書かれている。

 大きさから言うと表札というより看板だった。

 イラストも付いている。

 一匹の白い猫。……白? 煤けてしまって灰色とも見て取れる。

 えっと、ここに住んでる人はイラストレーターか何かですか。

 私はしばらく悶々と考えこんだが、しかし時間を無駄にしていると思い直し、一気にインターホンを押……そうとした。


「……あれ」


 そもそもインターホンがない。

 しかも、あるのは――。


 紐。


 神社とかにある、しめ縄ともいう、あの太い紐だ。

 そしてその紐のこちら側には札がついており、

『三回紐を鳴らすこと』

 と書かれている。

 どうやらその紐のあちら側が家の中にまで続いているらしく、これを鳴らせば来訪を知らせることができるのだろう――が。


「は」


 思わず固まる私。

 ちょっと待ってください。

 こんな家、あるんですか。

 二歩、三歩と後ずさって家の全貌を見てみるが、それほど古くも新しくもなさそうな大きな邸宅だ、という感想以外特になにも抱かない普通の家だ。普通の三階建ての家である。

 が。

 大股二歩で玄関に近づくとしめ縄である。

 しかもよく見れば神社の拝殿を模しているようにも見える。

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