雨上がりの空に

「てか、これ空になってるし」

傘を受けとった奴が呟く。確かに、その袋はぺたんこになっていて、中には何も入っていないように見えた。

「……俺も食いたいのに」

「後で買えばいいじゃんか」

「今すぐ食べたい」

我慢出来ないなんて。子供か、お前は。そう思い、呆れた目で奴を見上げたその時。奴の顔が近づいてきて、唇に柔らかいものが触れた。そしてその間から熱いものが侵入してきて、口の中にあった飴を奪い去っていった。……今のって。あまりに突然で、一瞬の出来事。けれども今起こったのはまぎれもなく世間一般でいうところのキスというもの。そう自覚した瞬間、全身の熱が全部顔に集まるような感覚におそわれた。きっと頬はリンゴ並に赤く染まっているに違いない。

「やっぱり美味い」

私から取り上げた飴を舐めながら奴が呟く。真っ赤になっているだろう私の顔とは対称的に、奴は普段と変わらぬ顔色で。それが、私だけがそれを意識しているような感覚にさせて。なんだかいたたまれなくなった私は、家の方向へ走り出した。いつの間にか雨は小降りに変わっていた。後ろから奴が何か言っているような気がしたけれど無視して、ただただ全力で走った。心臓がいつもよりずっと速く拍動する。それが走ったせいなのか、それとも何か別の理由からかは分からないけれど。ふと空を見上げる。山に架かる虹が空を鮮やかに彩っていた。

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飴のち、××× @chrome

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