雨音の中
校門を抜け、見慣れた風景を眺めながら歩く。学校を出るときに聞いたところによると、私の家は奴の家に着くまでの道にあるらしい。だから帰り道はいつもと同じ。違うのは左側に奴がいることだけ。
「…………」
雨が傘を叩く音だけが響く。学校を出てから私たちは一つも言葉を発していなかった。元々口数が多いわけではない二人だから、こうなるのは必然だけれども。静かな空気が私たちを包みこむ。他の人ならこの雰囲気に耐えられないかもしれないけれど、一人が好きな私には苦ではなかった。その空気に身をゆだねていると。
「やる」
不意に奴が口を開いた。突然なんなの。言った言葉も訳が分からないし。そう思った瞬間。口の中に硬くて丸いものが押し込められた。……なにこれ、飴?
「それ、俺が今気に入っている飴。美味いだろ?」
「ああ、まあ」
口の中でそれをコロコロと転がしながら答える。甘すぎないリンゴの味が口いっぱいに広がっていく。好きだな、この味。
「ねぇ。この飴、どこのやつなの?」
また食べたい、そう思った私は奴に尋ねた。すると、奴は私に傘を持たせ、エナメルバックからその飴の袋を取り出し、私に見せた。ふーん、あのメーカーのやつなのか。どうりで美味しいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます