第4話 懇願

「で、どうする?」

「どうするとは?」

「いつまでも、こんな所にいては作戦を実行に移せないだろう」

 ドエムプロはいらだちを隠せない様子だった。


「いや、まぁそうなんだけれども」

「まずは作戦を練ろう。やはり上から注ぐというのは変更できないと思う」

 ドエムプロは冷静に戦術面の指摘を行った。

「確かにそうだが、足止め役の教授はいなくなったぞ」

「しかたがない。我が輩がそれも引き受けよう」

「引き受けるってどうやって?」

「投稿動画の撮影するって真由美さんを階段の下に連れてきて、そこを伯爵が上から狙うのはどうか?」

「投稿動画の撮影って、真由美ねーちゃんが乗ってくるわけ無いだろう」

「そこは幼なじみの伯爵が上手く口車にのせろよ」

「おいおい。そんな無責任な……」

「とにかく一回、仕掛けてみよう」

 そうなのだ。このままじっとしていては、何のために真由美に悟られること無く軟禁状態を作っているのかわからない。ここは懇願でもなんでもして真由美嬢を引っ張ってこなくてはならぬ。意を決した伯爵は立ち上がった。


 伯爵は足早に下の階に降りていき、台所でジャガイモの皮を剥いている真由美嬢に声をかけた。

「あのう真由美ねーちゃん」

「ん?なによ?」

「YouTuberにならないかい?」

「なによそれ?」

「だから真由美ねーちゃんの動画を撮ってネット配信……」

「やらないわよ。そんなの」

「そっ、そうだよね」


 台所の真由美嬢を残し、伯爵はすごすごと引き下がる。廊下で待っていたドエムプロに報告する。

「駄目だった」

「アホか。当たり前だ!」

 台所のやりとりを聞いていたドエムプロは伯爵にそう言い放った。これには些か伯爵も頭にきてドエムプロに反駁する。

「偉そうに。だったら、お前がやってみろよ」

「よし。見てろよ」

 そう言って勇ましい勢いでドエムプロは真由美嬢のいる台所に向かう。

 今度は、にんじんの皮に取りかかっていた真由美嬢だが、台所に来たドエムプロに気がついて声をかけた。

「あら前園君どうしたの?」

「いや、あの。真由美さんに一つお願いがあってですねぇ」

 真由美嬢に声を掛けられた途端にドエムプロはし始める。それを見た真由美嬢は怪訝な顔で尋ねる。

「何?」

「あのう。真由美さんにスカウトキャラバン用の動画を……」

「なにそれ」

「ですから動画の撮影をですね……」

「さっきから、前園君にしても清次郎にしても動画動画って、一体何なの?」

「いや、それは……」

 さすがにドエムプロも言い淀む。

「まぁ、どうせ、あなた達が考えている事って、ことなんでしょうけれども」

「はっはい。すいません」

 台所の様子をうかがっていた伯爵は、えらそうな事をいったわりにはダラシが無いドエムプロに声を掛けた。

「おい前園。こっちこい」

「えっ、今、良いところなのに」

「もう。これ以上、真由美ねーちゃんの邪魔したら悪いだろう」

 伯爵はドエムプロの耳を引っ張ってその場から引きはがした。


「我が輩、真由美さんに怒られちゃったよ」

 台所から離れ二階に上がった途端にドエムプロが満足そうに言ったので、伯爵はいらだちを覚えた。

「偉そうに大見得を切ってアレか。俺と変わらんじゃないか!」

「まぁ、よくよく考えると最初から動画撮影のお願いが出来るぐらいであれば、こんな苦労はしないわな」

「それはそうだけれども……」

 その時、玄関の方から声が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る