第2話 監獄計画
「あんた達。いいかげん降りてきなさいよ。お昼はカレーで良いのよね?」
その声で飛び上がった三人は転げる様に部屋を出た。階段の下にいたのは、Tシャツに七分丈姿の快活そうな少女であった。隣に住んでいる女子高校生の真由美嬢である。
「あっ、はい」
「カレーは大好物であります」
シリイーナ教授とドエムプロが口々に答える中、キョニュースキー伯爵が憎まれ口を叩く。
「どうせ真由美ねーちゃんはカレーしか作れ無いんだろう?」
「言ったわね清次郎!気に入らなきゃ食べなくても良いのよ」
「なっ、なんだよ。母さんから昼食の材料費貰はしっかりと貰ってるんだろう?」
「ヘンだ。おばさんからもらった材料費は、塩尻君と前園君にご馳走する分で使っちゃうんだから」
ドエムプロが小声でキョニュースキー伯爵に耳打ちする。
「伯爵。ここはひとまず引き下がれよ」
真由美嬢に臍を曲げられては、せっかくの計画が水の泡である。キョニュースキー伯爵は仕方なく折れることにした。
「わっ悪かったよ。喜んで真由美ねーちゃんカレーを頂きますよ」
「最初からそう言いなさい。それじゃ私は買い物に行ってくるから」
「いやいや。待って下さい真由美殿」
シリイーナ教授が声を上げた。
「なによ塩尻君?何か買ってきてほしいものでもあるの?」
「いや。お使いならば我々がいきますよ。それぐらいは手伝わせて下さい」
そう言うシリイーナ教授に小声でキョニュースキー伯爵が尋ねる。
「どういうことだよ」
「解らぬのですか。所詮、真由美殿は昼食を作りに来てくれた隣の家に住む女子高生のお姉さんに過ぎないのですぞ。お昼が終わればさっさと自宅に帰ってしまうのですぞ」
「そうなると、もう我々にはチャンスが無いな。真由美さんがこの家にいる時しか勝負をしかけられないのだからな」
「そうですぞ。計画が遂行できない内は何としても真由美殿をこの家から出してはなりませぬ。この家を監獄にする勢いでいきましょうぞ」
「そんな大げさな事言うなよ」
「いやいや。教授の言うことは頷ける。なにしろ我々にとっては真由美さんはまさに高嶺の花。キョニュースキー伯爵とは違って日常話す機会すら無いのだからな」
「いやいや。俺だって普段は話もしないよ」
「キチンと考えて欲しいのですよ。我々が実際にこの目で見たことがある女性の中で、真由美殿を上回る女子はおりませぬ。キョニュースキー伯爵は家が隣だからと言ってまた次のチャンスがあると安穏に構えているのかもしれませぬが、我々にとっては、この機会は空前絶後のまさに絶好のチャンスなのですぞ」
「そうだぜ。伯爵からしたら、Tシャツ姿の真由美さんが家の中にいる今の状況とかは珍しく無い事なのかも知れないけれど」
「そっ、そんなこと無いよ。今日だって母さんが旅行で家を空けるんで真由美ねーちゃんに頼んでご飯を作りに来て貰っているわけで。こんなことは滅多に無いよ」
真由美嬢は、階段の所で何やら話し込んでいる三人に声を掛けた。
「あんたたちは、一体何をごそごそと話をしてんのよ?」
「なっ、なんでもないよ!」
「いやいや、これはですな。夏休みの宿題とか」
「そう。自由研究であります」
「まぁ別に良いけれど。お使いに行ってきてくれるんだったら、お買い物のメモを作ってくるね」
真由美嬢はそう言って奥の台所に引っ込んだ。これで、ひとまず監獄状態は実現出来そうだと三人は思った。
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