朱印状


一刀斎は、少し離れたところにある自分の庵に八重を連れてきた。

「善四郎、客じゃぞ」

一刀斎が声をかけると青年が一人、庵から出てきた。

「わしの弟子、神子上善四郎じゃ」

「神子上善四郎と申します。自斎先生の縁者の方とか。よしなにお願い致します」

背は五尺七~八寸(173~6cm)。

筋肉質には見えない、どちらかというと優男だ。

「八重と申します」

頭を下げる八重を少しまぶしそうに見ると、一刀斎からことのあらましを聞いた。

「では、行ってまいります」

善四郎は鍬を片手に出かけて行く。

遺体の埋葬をしにいくのである。


庵でまず、一刀斎は八重に茶などを振舞い、少しずつ話を聞いていく。

「鐘巻自斎は私の大叔父にあたります」

「して、自斎先生はご健勝かな?」

「自斎は一ヶ月前に亡くなりました」

「なんと……」

一刀斎は数えで七十五になる。

鐘巻自斎は自分の十も上だから八十五歳か。

大往生ではあるが。

師であり己が認める数少ない剣客の一人がこの世を去ったのはやはりさびしい事であった。

悔やみの言葉、自斎の思い出などに話は移っていき、本題に入った。

「何故、八重殿達は襲われていたのか? 心あたりはあるかな?」

「それは、この為でしょう」

八重が懐から出したのは一枚の書状である。


「これは…!」

徳川家の葵の紋の大きな朱色の印の下に花押かおうが押されている書状であるが、真ん中で切られて左半分しかない。


「この花押は……家康公のものじゃな」





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