~早速ピンチ?~
「あの、部長」
「何だい?」
「――僕がいない場合は、って言いましたよね」
「うん」
「その……部長以外の部員は?」
そう、部長がいなくても、他の部員に手伝ってもらえばいい。
けれど、部長の言い方は、もう他に誰もいないみたいな言い方だった。それに、まだこの部室に来て、二日目とはいえ、他に部員らしき人を見たことがない。
もちろん、ただの偶然で、たまたま会わなかっただけの可能性もあるけれど。
「あー」
と言って、部長は目をそらした。
「まだちゃんと言ってなかったね。……実は今、相撲部員は、僕と君の二人だけなんだよ。昨日見たよね? うちの部員が走り去っていくの」
「え? あ、ああ」
言われて、ぼんやりと思い出す。
そういや、出会いがしらに、いきなり人が飛び出して行ったような気がする。その後のインパクトが強くて、すっかり忘れてたけど。
「……うちの部は、昨年まで二十人近くいたんだ。でも、たった一年でもう、僕と君だけになってしまった。その理由がわかるかい」
「いえ……」
「こいつのせいだよ」
部長が、隣のロッカーを開けた。
途端、ドッターンと、擬音がつきそうな勢いで、人が転がり出てきた。
――って、え! 人!?
「せ、先輩!?」
三上先輩が中に入っていた。しかも、デジカメを持って。
待て、どういうことだ、説明しろ。
部長の冷たい視線が、三上先輩に突き刺さる。
「いつから潜んでいたんだ、三上」
「最初からだ!」
「えばるな、変質者!」
部長の鉄拳が、腹部に突き刺さる。
「ごふばぁ……っ!」
奇妙な悲鳴を上げながら、先輩が吐血した。
「く……相変わらず、その隙のなさと腹黒さと、向こうずねの脂肪の柔らかさが素晴らしいな、赤山部長。欲を言えば、もう少し筋肉量を減らしてもらえると大変俺好みなのだが」
「お前の好みなど知るか。というか、さりげなく足をもむな」
部長が先輩のカメラを取り上げ、踏みつぶす。
「オー、マイスウィートメモリー!」
三上先輩が叫んでいる。というか、あれ、もしかして、盗撮してたのか。
カメラに手を伸ばす先輩の頭も、ついでに踏む部長。
なんだか、入る部を間違えた気が猛烈にするのは、気のせいだろうか……。
「東雲君。うちの部員が消えた理由はね。三上がこうして、毎日のようにセクハラをしまくるからなんだよ」
「セ、セクハラ?」
「毎日毎日、稽古場に来ては、触るわ、もむわ、舐めるわ、嗅ぐわ。おかげで、まともに練習すらできやしない。何度追い払っても、ゴキブリのようにわいてくる始末でね」
ゴキブリ……。
「おかげで、相撲強豪校だった我が校の部員も、一人、また一人と脱落……ついには、廃部寸前まで追い詰められてしまったんだ」
部長があまりにあっさり言い放つもので、一瞬そうかとうなずきそうになる。
だが、待て。今、聞き捨てならない言葉を言ったよな!? そうだよな!?
「廃部!?」
「ああ、しかも僕はもうすぐ受験で、部を引退しなくちゃならなくなる。すると、君一人になってしまうだろう。そうなると、部として認められないと生徒会長に通告されてしまってね」
僕も困り果てているんだよ、と部長が肩を落とす。
だが、困り果てたのは、こちらも同じだ。
というか、廃部? 入部してもう廃部ってどういうこと?
「でも、東雲君……君はやめないよね!」
「え」
「大丈夫! あともう一人くらい入ってくれたら、伝統ある部だし、なんとか廃部は避けてもらえるらしいから」
部長が、僕の手をしっかりとつかんだ。部長が狩人の目をしている。
「期待しているよ、東雲君!」
「え、あ」
えーと、それは、つまり。どういうことだろう。
つまり、僕は、これからまず、そもそも部を立て直さなければならないってこと? たった一人で? 最低でも、もう一人部員を増やさないと、廃部?
ちょっと待て。そんな話、ぜんぜん聞いてない。
「じゃあ、これからよろしくね!」
「部長、え、ちょ、えええええええええええっっ!?」
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