第六章「東雲、再戦する」

~最終日~

 月末、最後の登校日。

 つまり、相撲部の廃部が決定する日。

 僕は放課後、部室の前にやってきていた。心配した崎田もついてきてくれている。本当に面倒見のいいやつだな。

「東雲。その、部員って一人でも増えれば良いんだろ。もし、幽霊部員でも良いなら、俺が――」

「ありがとう。でも、気持ちだけ受け取っておくよ」

 崎田の提案を断って、僕は部室へと向かう。

 部室の鍵は、すでに部長が開けておいてくれた。崎田とは後で合流するので、ここでいったん別れる。

「お疲れ様です!」

 部室に入ると、稽古場の前に、三上先輩がすでに来ていた。

「お疲れ、東雲」

 いつもと違って、甘さのない表情だった。

 今日これから始めることを考えたら、当然だろうけど、やはり珍しいものを見た気分になる。

「今日はよろしくお願いします、三上先輩」

「ああ、こちらこそ」

 僕は先輩に頭を下げると、更衣室へと向かう。着替えながら、少しずつ試合に向けて、精神を統一していく。

 部員でもない先輩を呼んだのは、僕だ。

 廃部が決まる最後の日に、どうしても再戦したいと願い出たのだ。

 残された時間で何ができるか、必死に考えて、結局僕には相撲しかやることがないと思った。

 最終日まで、いつもと同じように練習するということも考えた。けれどそれでは、僕は相撲を好きなままでいられるか、自信がなかった。

 最後の最後まで、僕は相撲を好きでありたい。胸を張って、これが僕の好きな相撲なのだと言えるようになりたい。

 そのためには、もう一度、けじめをつける必要があると思った。

 練習をしない言い訳を他人のせいにしていた自分、一人ではつらいと弱音を吐く自分、素人と侮って先輩に敗北した自分、心のどこかで相撲を好きだということを恥じていた自分。

 それら過去の自分に、きちんとけじめをつけて、初めて僕は相撲とまともに向き合える気がした。

 当然、これは僕のわがままだ。先輩には無理を言って、付き合ってもらっている。

 だからこそ、全力で、真剣に戦う。僕の持てる全てを出し切って、そして勝つ。

 着替えが終わったとき、更衣室のドアがノックされた。先輩なら、ノックなんてしない。きっと部長だろう。

 予想通り、赤山部長が顔を出す。

「お疲れ様」

「お疲れ様です。すみません、受験勉強で忙しい時期に」

「いや、そんなことは良いんだ。むしろ、こんなことしかできなくて」

 首を横に振ることで、先輩の言葉をさえぎる。

「僕も、諦めたつもりはありません。たとえ今日廃部になったとして、またいつか部員を集めます。どれだけ、時間がかかったとしても。そして、相撲部を復活させます」

「……そうか」

 部長が微笑む。

「そこまで覚悟を決めているのなら、言うことは特にないかな」

 独り言のように、部長がつぶやく。僕に何かを伝えにきたのだろうか。

 けれど、部長が言う必要がないと判断したのなら、今、僕が聞くべきじゃないのだろう。

 部長は僕の肩を掴んで、エールを送ってくれた。

「全力で楽しんできなさい。東雲くん」

「はい!」

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