~タイムリミット~

 まさか、それが毎日続くとは。

 連日、先輩に振り回されて、僕の体力も精神力も、そして恐るべきことに体重も削られていった。

 先輩が頑として、部活に行かせてくれないので、家に帰ってからでないと、練習できない日々が続いたのも要因だろう。


 そんなあくる日の昼休み、僕は赤山部長にメールで呼び出されて、三年の教室の前に来ていた。

「や、久しぶり。呼びつけて悪かったね」

 教室から出てきた部長は、片手を挙げて僕に微笑んだ。

 冷静に考えれば、部長と会うのは、ほんの十日ぶりくらいなのだけれど、久しぶりという言葉が妙にしっくりくる。

 それだけ、会わなかった期間にいろいろあったということだろうか、僕も部長も。

「部長。もしかして、やせました?」

「ああ、うん。塾と学校の往復しかしてないから、もっと太ってもおかしくないはずなんだけどね。困るよなあ」

 本当に、困っているのか、そうでないのか。わからない笑顔で部長はつぶやく。

 けれど、きっと本音だろう。受験というのが、どれほどきついものか窺い知れて、僕もなんだか憂鬱な気分になる。

「東雲君も、ちょっとやせたんじゃないか?」

「ええ、まあ。いろいろあって」

「……聞いたよ。三上と付き合ってるんだって?」

 来た。おそらく、今日呼び出されたのは、この話だろう。

 正直、あまり話したくない議題だったが、思ったより単刀直入に問われたので、僕としても話をごまかすのはためらわれた。

 それに部長には、曖昧にごまかそうと思っても通じない気がする。

「はい」

「それはどうして?」

 部長の声に、とがめる様子はなかった。単純な好奇心から聞いているようにも思えなかった。

 僕は、崎田にすら話していない、ことの経緯を話し始める。同じ相撲部の部長には、知ってもらっておいた方がいいと思ったのだ。

 あらかた説明し終えると、部長は腕を組んで、考え込んでいるようだった。

「ふむ、なるほどね」

「すいません。これで先輩が相撲部に寄り付かなくなればいいと思って、つい」

「いや、謝ることはないよ。確かにそのくらいしないと、あいつは君に付きまとっただろうからね。――まあ、結果として、余計に付きまとわれることになってしまったようだけれど」

「申し訳ないです……」

 苦笑して、先輩が僕の頭をなでる。

 子供扱いされているのはわかったが、部長相手になら、嫌な気分はしなかった。

「わかったよ。つまり、君は好き好んであいつと付き合っているわけじゃないんだね」

「そうです」

「なら僕の方でも、少し手を打ってみるよ。三上がそう簡単に、僕の言葉に従うとは思わないけれど」

「本当ですか!」

 部長の言葉が、光明のようにきらめく。誰にも頼れないと思っていただけに、その言葉はありがたかった。

「まあ、その前に、廃部になってしまったら、元もこもないんだけどね。生徒会から言われたよ。今月中に部員が一人も増えなかったら、廃部決定らしい」

「今月中……」

 月末までは、残り二十日といったところだった。

 予想以上に、リミットは近い。

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