読書感想文『ポピーのためにできること』(超ネタバレ)
オチのネタバレをするわけではありませんが、念のために超ネタバレです。
そんなわけで読む予定がある方はなるべく回避しましょう。
さて。
この作品のテーマは。
シンプルに言えば『正義と悪』でしょうか。
あるいは『本当に正しいこととは何か?』かもしれません。
正義。
正論。
正当性。
まあ、何でもいいですが、正しいことです。
ですが、この人間社会で正しいことは『忌避』されます。
それはなぜか?
『人間が正しいことに耐えられない生き物』だからです。
この物語で多くの登場人物は正しさなど求めていません。
彼らにとってはこの世界が『悪』に塗れていたとしても関係ないのです。
そこにあるのは自分にとっての『利益』だけです。
自分にとって『利益にならない正義』は存在しないのと同じです。
(遠くの地で慈善行為をしていても評価されないのはそれが理由です)
(その慈善行為が彼らにとって何の利益も齎さないからです)
彼らにとって自分の利益となる嘘は『悪』ではありません。
むしろ自分たちの利益を損なう人間こそが『悪』になってしまうのです。
だからこそ現実は『反転』するわけです。
人々は利益がある方へは容易く立ち位置を変えてしまうからです。
この物語で描かれているのは『利益を基にした正義と悪』でしょう。
利益を齎さなくなった人間を『悪(邪魔者)』として切り捨てる小さな世界。
それはシンプルな正義と悪です。
分かり易く、誰にでも共感できる。
だからこそどこまでも『おぞましい』のです。
自分にとって必要ない人間は『要らない』のです。
正義だろうが。
悪だろうが。
利益となる方へと転がっていくのが『人間』という生き物なのです。
しかし、一方で『利益』ではなく純粋に『正義』を求める人々もいます。
彼らは周囲に破滅を齎そうとも『正義』と呼べる何かを追及します。
では、なぜ彼らは利益ではなく正義を求めるのでしょうか?
それは彼らが『悪』こそが世界を崩壊させる種だと思っているからです。悪が平然と蔓延る世界とは守られるべき『人権』すら『紙くず』となる世界だからです。
人が人として暮らしていけなくなる世界が広がってしまう。
そうなる前にどこかで誰かが止めなければなりません。
そこに痛みがあったとしてもやるしかないのです。
まるで手術でもするようにその『悪性』を切り取らなくてはならない。
誰かがやらなければその分だけ世界に悪が広がってしまうからです。
その結果、例え誰が死のうとも。
正義はなされなけばならないと彼らは考えているわけです。
利益を守ること。
小さな世界を維持すること。
正義を守ること。
大きな世界を正すこと。
果たして『正しい』のはどちらでしょうか?
そして、
『ポピーのためにどうすることが正しかったのでしょうか?』
おそらくそれこそがタイトルの意味だと思います。
果たして本当の意味で『ポピー』のために行動した人間がいたのでしょうか?
分かりません。
おそらくこの物語は『間違った物語』です。
正義も悪も方法を間違えたからこそ『悲劇』が生まれてしまった。
正義は暴走し、悪は真に邪悪なものへと変貌してしまった。
悪夢のように悪が連鎖していく。
彼らに導かれるように加担してしまう人々の群れ。
一つの悪の勝利が別の悪を生み出していく。
あるいはこの物語の先にもまた『新たな悪』が生まれたのかもしれません。
果たして一つの正義を見た人々はそれを信じることができるのでしょうか?
あるいはその正義ですら誰かの利益のために踏み躙られるのでしょうか?
これもまた分からないことです。
それは読者が物語の終わりに綴られた文章から読み解くしかありません。
傍観者として全てを見届けた読者はその後の物語に何を想うのでしょうか?
最後に残されたのは『希望』か『絶望』か。
あるいは何も変わらぬ『現実』が続いていくだけなのでしょうか?
――――
という感じの『テーマ』ですかね。
あくまでも小生の読み取った内容ですのでこれが正解というわけでもありません。
情報量が少ないからこそ『分からない』です。
でも、その『分からない』ことこそこの物語の真意のような気もします。
『どうして悪いことを止められないのか?』
それを一度考えてみろと言われているような気もします。
世の中にはそんな事例がたくさんあります。
皆分かっていた。
分かっていたけどどうしようも無かった。
それを正せば不利益を被る人々がいたから。
その人々が大きな権力で守られていたから。
あるいは法律がその悪に対応できていないから。
たぶん全ては同じことなのだと思います。
どうすることもできない。
他の解決方法が見つからない。
ならば放置しておこう。
そして、爆発する。
その繰り返しが人間の歴史なのでふ。
なので解決策はありません。
でも、たまに考えて見ましょう。
というわけでテーマの話は終わり。
後は『ミステリー』部分のお話でもしましょう。
ミステリーとしては『物語の違和感』に気付き、ある程度の知識があれば、物語の中の探偵役と同じような結論に至ることが可能なので、上手いミステリー小説と言えるでしょう。
しかも初心者にも分かり易く段階を踏んで『推理』しているので、『推理小説』とはこういう風に読んでいくものだという分かり易い例にもなっていると思います。
まあ、気になる点としてはこの『書類』自体が『作成者に誘導されている内容』であるという点ですかね。もっともメタ的に言えば、物語を作成するために意図的にピックアップされた内容なので仕方がないとも言えるでしょう。
訳を考えるならば『先入観』を与えないために書類から排除したと考えることもできますが、細かい疑問自体はけっこうありますね。
警察は何をしていたのかとか。
この文章はどうやって手に入れたのかとか。
これに関しては情報量を少なくした弊害でしょう。とはいえ、細かいことを考えずに推理小説として読めば、間違いなく面白い作品なのでそういうのが好きなら読みましょう。
あーでも、つまりこれは。
最後の方の文章はそういうことなのか。
あれがあれしたから連絡を取ったのかな?
でも、あそこに名前がないってことはその後あれした可能性もありますね。
うーん、たぶんまだ読み取れていない事実がありそうな感じですね。
また読み返してみようかな。作者様はすでに別の作品も書いているらしいので、そちらも翻訳されたら購入予定ですね。
とはいえ、そっちが翻訳されるかはこれの売り上げ次第でしょうか。
皆さんも買って読んでくださーい。新しい作品が翻訳されるために(笑)
でわでわ。
終わりでふ。
<誰が加害者で、誰が被害者なのか?>
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