なぜ『鬼滅の刃』は売れたのか? その四(超ネタバレ)
『鬼滅の刃』という物語を紐解くために、まず最初に理解しなければならないことがあります。それは『鬼舞辻無惨』という存在です。
これは彼が何者なのかということではなく、彼が何の『メタファー』なのかということです。つまり、彼は一体何の『象徴』だったのかということになります。
答えはとても簡単です。
むしろ作中で彼自身がはっきりと明言しています。
人知を超えた存在であり、容易く人の命を奪うもの。
人の営みに何の関心も抱かず、ただそこにあるもの。
『無惨』という存在は人の命を奪う『災害』のメタファーであると推測できます。
彼が行動するだけで人々の命は無残に奪われて行きます。
一方で彼が行動したとしてもまったく被害に合わない人々もいます。
彼は『人類に被害を齎す存在』ですが、『人類を滅ぼす存在』では無いのです。
だからこそ『鬼殺隊』は『政府公認の組織』にはなれないわけです。
もし『無惨』が人類を滅ぼすような邪悪な存在ならば、物語はまた別の形になったでしょう。あるいは彼は将来的にはそういう存在になったかもしれません。
ですが、物語の中で彼は気まぐれに災害を引き起こすだけの『鬼』に過ぎません。『政府(人類)』が全力で狩るほどの存在でも無いのです。
むしろ『犠牲』を黙認している節すらあります。
『現状維持』という言葉が一番適切かもしれません。
(余計な手出しをして明確に敵対することを恐れているという可能性もあります)
(鬼もわざわざ『偉い人々』を殺すようなことはしていないのかもしれません)
少なくとも『政府』はそこまで明確に困っている状況では無いわけです。もちろんいないほうがいいのは確かなので『鬼殺隊』という存在も同じように黙認していると言えるでしょう。成功すればラッキーぐらいの感じでしょうかね。
つまり『鬼殺隊』というのは『災害にあって政府から見捨てられた人々の集まり』とも言えるわけです。
だからこそ彼らは自分の手で『無惨』という『災害』に立ち向かわなければならなかったのです。彼らだけが『無惨』という存在の『被害者』だからです。
もちろん彼らにだって『災害』のことを忘れて残りの人生を過ごすことはできたでしょうし、全員が『災害』を止めようと立ち向かったわけではないと思います。
むしろ『災害』に立ち向かったからこそ死んでしまった『犠牲者』も大勢いたはずです。だからこそ『彼』は語ります。おまえらは『異常者』だと。
これは自分から死にに来る『自殺志願者』というニュアンスもあったのでしょう。
『勝てない者に挑み、なぜわざわざ死んでいくのだ』と彼にはそれが理解できなかったのです。
これは『政府』も同じと言えるかもしれません。
『戦えば死人が増えるだけなのになぜわざわざ戦うのか』という疑問。
『最小限の犠牲で災害が治まるならばそれでいいではないか』という理屈。
それは小さな視点で見れば正しいかもしれません。
『無惨』という存在を災害と割り切ってしまえば被害はもっと少なくなるでしょう。
ですが、『彼ら』は知っていたのです。『無惨』という災害を克服しなければ、これから未来永劫自分たちと同じ『被害者』が出続けるということを。悲しみの連鎖が永遠と続いていくという真実を。
彼らは『選んだ』のです。
『選べなかった人々』のためにも。
だからこそ『鬼殺隊』の人々は自分の命を投げ打ってでも『災害』へと立ち向かうことができたのです。その命が未来の誰かを守ることを信じているからこそ、立ち向かえたのです。
そして、その結果、一つの災害を人類は克服することができました。
『未来に続く被害者(犠牲者)の系譜』を彼らは止めることに成功したのです。
この物語のラストで『未来』を描いたのは『必然』でした。
これは『未来』を勝ち取るための戦いでもあったからです。
彼らの望みどおり遠い未来で『鬼』の存在は絵空事になりました。もし過去の時代に『無惨』を止めていなければ、この『未来』で『人と鬼の戦争』になっていたとしてもおかしくはなかったでしょう。
これは今回の『新型コロナ』の件と比較することもできます。
当初、『中国』で流行を止めることができれば歴史が変わっていたはずです。
ですが、それができなかったからこそ『世界』へと災害が広がってしまい、多くの犠牲者が出てしまいました。
(中国で発生した時点で世界に広がっていたという証言もありますが)
(現状ではまだ明確な根拠が無いので知らん)
(のちに責任の押し付け合いになるでしょう)
(まあ、各国がコロナ対策に失敗したことは否定できない事実でしょう)
人間と言うのはどうしても『災害』や『災厄』を他人事のように感じてしまいます。さらに恐ろしいのは被害にあった人々を踏みつけても平気な人間が大勢いることでしょう。
『自分さえ助かればいい』
『他人のことなんて考える余裕がない』
それもまた真実ではあります。
ですが、その対応がいずれ自分の元へと返ってくるとは気付かないわけです。
いや、彼らは返ってきたとしても平気なのです。
ただ『なぜ自分たちだけが』と叫ぶだけですから。
当たり前ですが、人が『災害』を克服するためには大勢の人々の協力が必要です。
それは『一人の力では不可能なこと』なのです。
だからこそ、『鬼滅の刃』という作品では大勢の人間が力を合わせて初めて『無惨』という『災害』に打ち勝つことができたわけです。
それはけっして『竈門炭治郎』だけの力ではありません。彼はこの物語の主人公の一人に過ぎません。彼が真の力に目覚めて『無惨』を一人で倒してしまわないのも、これはそういう『物語』ではないからです。
まあ、漫画的にはそっちの方が盛り上がったかもしれませんが、テーマ的には断然こっちの終わり方の方が正しかったわけですよ。
この辺りの判断はもの凄く難しいですね。
テーマを優先して売れなかった作品も多いですし。
ただ少年漫画の王道的には最後は主人公が大活躍するというのが王道なのですが、そこを外してまでも譲れなかった『テーマ』ということでしょう。おそらく読者の間でも多少は意見が分かれるところかなーと思います。
作者様も『鬼滅の刃』という物語がそういう物語だときちんと理解したうえで書いてますし。『23巻のラスト』を見ればそれがはっきりと理解できます。
『一つのテーマ』を最初から最後まできちんと描いたからこそ『それ』がしっかりと読者に届いたのだと思います。
『鬼滅の刃』という作品はけっして『器用な作品』でも『壮大な物語』でもありませんでした。地道にたった『一つのこと』を貫き通した作品と言えるでしょう。
でも、その一つのことが『読者の心』を貫いたわけです。一点突破型ではない作品なのに『最終的には一点突破型』になった作品ですかね。
全ての要素がこのラストに繋がってくからこその『面白さ』です。
それは他の名作と肩を並べることができるほどの『面白さ』だったと思いますよ。
ま、小生は素人なので考察はこの辺で。
プロの方々はきちんと考察して資料として残しておくべき作品ですね。
『テーマとはこうやって描く』という良い見本でありますし、『物語を成長させる』という意味でも良い手本になります。どうやって『物語の完成度を高めるのか』という意味でも素晴らしい資料になるでしょう。
いやー、ほんとに『凡人でも理解できるレベルの作品』だからこそ学べることはたくさんあるわけです。ちょっとした意識の違いでも作品の『質』って変わりますし。
どこを『意識』するか。
何に『焦点』を向けるか。
実力があるのに面白い作品が書けない人はその辺りが欠けている可能性があります。ヒットするかは別として『やるべきことをやれば面白い作品が作れる』というのは確かなことです。
この『鬼滅の刃』という作品は『それ』をやった作品ですね。ヒットしたのは『それ』をやったからではありませんが、『それ』をやらなければヒットするチャンスすらないわけです。
まあ、それと同時に一つの作品を完成させることの難しさを教えてくれる作品でもありますね。普通の作品を押し上げるためには『ここまで』やる必要があるわけです。
天才たちはそのハードルを一足飛びに越えていくわけですからつらたん(汗)
あいつらは『発想』だけで最初から高みにいるからなー。
次回作があるならば作者様も油断せずに今回と同じように『積み上げて』いって欲しいですね。『こんなものでいいか』という慢心があるとたぶん駄作になる危険性が高いと思われます。
いや、まあ、『長編』の後に『面白くない作品』を発表する作者さんって多いんですよね。ネタは切れてますし、体力的にも精神的にも疲弊してる場合もありますし。
それに『名前が売れてくる』と前と同じ『質』じゃなくても売れてしまうんでよねー。きちんと同じ『質』で書いてくる方もいますが、こればかりは実際に読んで見ないと分かりません。
なので期待はしますが、確信はしません。つまらない作品を書いてしまえばいつでも見限るのが小生たち読者です。
少なくとも小生はいつだって『対等な立場』で作品を読んでます。
そこにあるのは『面白いか』『面白くないか』という二択だけです。
プロであり続ける限りその『呪縛』からは逃れられないでしょう。
小生だって面白い作品を読むために色んな努力をしているわけですし。
もちろん面白い作品を書いてくれる作者様は大歓迎ですよ。
小生はいつだってそれに飢えてるわけですから。
なのでこう締めくくりましょうか。
次回作も期待しております(ぺこり)
わははは、まさに祝福であり呪いでもある言葉ですね(笑顔)
でわ、小生は次の面白い作品を探す旅に出ましょう。
『鬼滅の刃』という作品を心に残したまま。
<完>
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