なぜ『鬼滅の刃』は売れたのか? その三(ネタバレ)

 小生が本屋にいると幼い子供が親を連れて走っていく。

 その先には『鬼滅の刃』の単行本。


 ふと小生は気付いた。


 ああ、そんな光景を久しぶりに見た気がする――と。

 はしゃいで漫画を買う子供など最近見た記憶が無かった。


 これは、つまり、今の子供たちが始めて体験する大ヒットした『少年漫画』なのではないだろうか。そんな考えが頭を過ぎった。


 かつてはそんな漫画がたくさんあった。


『キン肉マン』

『ドラゴンボール』

『スラムダンク』

『幽遊白書』


 学校で漫画を回し読みすることも珍しくは無かった。

 漫画は我々の共通言語だった。


 でも、いつしかそれは『オタク』のものとなっていった。

 少年たちは漫画以外の楽しみを見つけて、少しずつ離れていった。


 それが今この瞬間、共通言語である『漫画』が帰ってきたのではないだろうか。

 かつて見た光景が今あるというのは不思議な感覚である。


 いずれこの今も誰かの懐かしい記憶となるだろう。

『鬼滅の刃』という漫画はそういう作品となったのだ。


    

――――


 つまり、結局、所謂、『ライバルがいなかった』というのが『鬼滅の刃』が売れた理由の一つになると小生は推測しています。


『少年漫画らしい少年漫画』というのが今の時代少ないわけです。それが売れなくなったのだから少ないのは当たり前ですが、売れなくなったからと言って需要が無かったわけではないというのが面白いポイントです。


『掘るのが難しいだけで枯れてはいなかった』ということでしょう。

 

 けっして『進撃の巨人』とか『呪術廻戦』とか『チェンソーマン』とか『テラフォーマーズ』とか他のヒットした作品がつまらないということではありません。


 物凄い面白い作品群です。

 ただ読んでると疲れてしまうのも事実だと思います。


 衝撃的な展開が多く『おおっと』と思うことも多いのですが、物語を追っていくうちに疲れてしまい、『もういいかな』と思うこともあります。


(もっともそういう作品の方が熱狂的なファンは多いですが)


 WEB小説が流行したのも『読んでいて疲れない作品が多い』からです。『鬼滅の刃』も読んでいて『鬱々』とした感情に囚われることがありませんでした。


 もちろん『鬼滅の刃』は『残酷な物語』です。

 悲しい展開も多いです。


 でも、物語の登場人物たちがその悲しみに飲み込まれずに前へと進んでいく。

 それはかつての『少年漫画の王道』では無かったでしょうか?

 

 それが変わったのは『新世紀エヴァンゲリオン』の影響が大きいでしょう。主人公が色んなものを鬱々と抱え込んだまま物語が進んでいくみたいな感じですね。


 むしろこっちの方が『王道化』している傾向が強いでしょう。

 いろんなことがすっきりとしている作品の方が少ないと思います。


 その点、『鬼滅の刃』の主人公は辛いことがあっても耐え、努力と根性で何とかしようとする明確な意思を持った登場人物です。考えるよりも先に行動するタイプと言えるでしょう。


『我妻善逸』も情けない部分があるキャラクターですが、それは嫌な情けなさではありませんし、『嘴平伊之助』も乱暴なキャラクターですが、暴力的なキャラクターではありません。


 基本的に『鬼滅の刃』に登場する人間側のキャラクターというのは『根は良い人』としえて描かれています。最初は不愉快なキャラクターだったとしても、彼らには彼らの理由があり戦っていることがきちんと描かれていくのです。


 ここが重要なポイントでもありますね。

 これは『けものフレンズ』では『トゲ抜き』と呼ばれる作業です。


『読んでいる読者に誤解を与えないように適切な表現をする』とでも言えばいいのか、『読者をただ不愉快にさせるような表現を減らす』とでも言えばいいのか、ちょっと言葉で説明することは難しい感覚になります。


(ちなみに最後に登場人物のその後を明確にしなかったのも同じ理由でしょう)

(彼らはその後も一生懸命に生きて、『命』は未来へと繋がっていったわけです)


(彼らがどうなったのかは読者の想像にお任せしますという配慮になります)


 もちろん『鬼滅の刃』は『けものフレンズ』ほど明確にその作業をしているわけではありません。


 ただなるべく『人間同士のギズギス』は描かないようにしている。例え描いたとしても後からきちんとフォローを入れる作業を忘れないようにしているわけです。


『人間同士の争い』というのは物語を『複雑化』させるうえでは重要なポイントになりますが、この『鬼滅の刃』という物語においては不要なのです。


 作者様もそれを理解しているからこそ『政府の組織』とか余計な要素を増やさなかったと推測できます。エリート組織みたいなのが出てきて対立したりとかやりたくなりそうなのですが、そういうのは物語が複雑化するだけなのでやらないわけです。


 あくまでも物語はシンプルに分かり易く『人と鬼の対立』だけを主軸にする。

 物語のテーマ的にもそれ以上複雑にする『必要性』が無いのです。


『物語は単純になるべく読者にストレスを与えないようにする』


 というのが『鬼滅の刃』という作品の大きな特長でしょう。ただ同じ『ストレスフリー』が多いWEB作品との違いは『堅実に表現する』という点でしょうか。


 全ての要素を逸脱させずに飛躍させない。

 一つ一つを丁寧に積み上げて物語を形作っていく。

 

 口で言うのは簡単ですが、成すのは至難の業でしょう。

 だからこそWEB小説は『飛躍した展開』が多いわけです。


 そちらの方が『簡単で手っ取り早い』からです。

 例え失敗したとしても『別の方向性の作品』を作ればいいだけですし。


 だからこそ逆に『鬼滅の刃』と同じ系統のライバルが少なかったのでしょう。個人的にぱっと思いつくようなライバルは『ゴールデンカムイ』かなー。


 あれも残酷な展開が多い作品ですが、そのことで『ストレス』を感じたりすることはあまりありません。やってることは明らかにやばちんなのに、何か『明るく殺しあってるなー』ぐらいの頭がおかしくなるような感想しか湧いてきません(汗)


 後は『ワンパンマン』とかも同じ系統かもしれませんね。あれもいろいろ複雑化したものを『パンチ』でぶっ飛ばすだけの作品ですから(笑)

 

 ただ『鬼滅の刃』と比べると両方とも『青年(大人)向け』の作品であり、物語自体は複雑化してますね。『ワンパンマン』も物語の見せ方をめっちゃ工夫してますし。


 後は『冒険王ビィト』もかなり近い作品ですかね。

 こちらは『少年向け』と言ってもよいでしょうし。


 ただ連載が途中で中断したうえに続きが出るのがめっちゃ遅いのでほとんど話題にならない作品でもありますけど。まとめて読むと『少年漫画の王道』で物凄く面白い作品なのですががが。アニメ化すればワンチャンあるか(大汗)


 小生が今見ている『仮面ライダークウガ』とも似ている部分が多いと思います。

 敵がどこまでも残酷だからこそ、それと戦う人々の心に魂が宿っていくのです。


『鬼滅の刃』という作品は少年漫画の王道を突っ走った結果、逆に今の時代の『オンリーワン』になってしまった感じもありますね。昔の作品と比べると珍しくない作品なのですが、今の作品と比べると逆に新鮮という感じでしょうか。


 作品の内容だけでここまでの大ヒットになったわけじゃないことは確かでしょう。

 様々な『外部要因』も絡んできたからこそ、ここまでヒットしたわけですよ。


 アニメの主題化が『物語に適していた』というのも大きな要因です。『がんばれ!蜘蛛子さんのテーマ』もめっちゃ作品に適した歌ですし、今後はこういう方向性が主流になるかもしれません。


 ヒットする曲自体が『物語性重視』の方向性になってますし。かつて『初音ミク』でやっていた狭い世界が今頃メジャー化してくると小生としても不思議な気持ちになります。


『やっと時代が小生たちに追いついたか』というより『小生たちと同じ世界に来て大丈夫か日本』という心配の方が大きいですね(汗)


 小生は昔から音楽も『物語性重視』だったので、歌詞の意味とか深読みしちゃうタイプなんですよねー。まあ、それが『考察』に役立っている経験でもありますけど。


 でわ、このシリーズも次で最後にします。最後は『鬼滅の刃という物語は何だったのか?』というところを掘ってみましょう。


<もう少しだけ続くのじゃ(亀)>

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