ドラマ観賞『MIU404』(超ネタバレ)

 あちこち詰めの甘さはありましたが、面白いドラマでした。

 普通の刑事ドラマとは違ったところを狙ったのが良かったですね。


 例えば『第二話』とか普通だともっとドラマチックな展開にします。


『真犯人は別にいる』とか。

『犯人が友人との会話で救われる』とか。

『犯人と父親が最終的に和解する』とか。


 でも、そういうのが一切無い。父親の家に写真があったことから、彼も後悔しているということは理解できますが、ただそれだけ。


 二人の擦れ違った想いはどこにも辿り着くことはありません。

 犯人が『謝ってもらうこと』はあり得ない妄想なのです。


 残されたのはただどうすることもできない『殺人』という現実だけ。

 そこにはドラマチックな展開は何もありません。逮捕されるだけです。


 それでも全てが無駄だったわけではありません。


『404』が間に合ったことによって犯人の自殺は食い止められ、騙された二人の謝罪によって、犯人はようやく『現実』を受け止めます。


 失った命は戻らず、殺した現実は変わりません。

 それでも一つの命が現実と向き合う切欠にはなったのです。


 このドラマの特長としては『すっきりする』という展開をわざと排除しています。

 全体的に『手遅れ感』というか警察の限界を叩きつけられるような雰囲気です。


『犯人』を逮捕できても『更生』させられるわけじゃない。

『事件』を解決できても『問題』を解決できるわけじゃない。

 

 警察にできる『正義』というのは物凄く『小さい』のです。


 だからこそ、『蒲郡慈生』は警察を信じずに自分で解決しようとします。

『警察の正義』ではなく『個人の正義』で裁く道に。


 それは彼にとっての『救い』であり、同時に『絶望』でもありました。復讐が終わった彼に残されたのは『殺人者という事実』と『妻がいない』という現実だけです。


 自分を最低のクズだと自覚しながら自分のしたことを後悔していないという矛盾。

 その現実が『蒲郡慈生』から全てを奪いました。


『伊吹』にはそれを止める『スイッチ』がありませんでした

 理由は単純です。


『蒲郡慈生』にとっては『伊吹』よりも『奥さん』のほうが大事だったからです。

 彼にとって『伊吹』は大切な息子ではないのです。


『蒲郡慈生』が残された時間を『奥さん』と過ごすことに使うのは普通の選択ですが、結果的にはその『選択』が彼は一番大切なものを奪う道となりました。


 あのとき少しでも『親身』になっていれば。

 あのとき僅かでも『違和感』を抱いていれば。


『自己責任』というにはあまりにも虚し過ぎる結末です。

 この世には許すことができない『クズ』がいるのも現実です。


 だから、同じように『404』の二人も警察では裁くことが難しい『クズ』を裁くために『個人の正義』で行動します。


 それが悪を裁くために一番『簡単』だからです。

 自分だけの力で、自分だけの正義で、自分だけの理由で。


 死刑台すら用意しない私刑は簡単で楽です。

 

 まあ、その結果、捕まって死に掛けるわけですが、それも当然の結果でしょう。  この作品は『独り善がりの正義』というものを否定する物語だからです。


『志摩』の元相棒の『香坂義孝』は思い込みだけで証拠を捏造して破滅します。

 それはきちんと『志摩』と話し合っていれば回避できたことでした。


『陣馬耕平』も一人でトラックを止めようとして跳ねられてしまいます。

 この行動も彼の正義感が暴走した結果と言えるでしょう。


(あの場面は車を避けて追跡すべき場面です)

(自分の力だけで解決しようとした結果があの状態でしょう)


(ただ最終回付近はシナリオを優先した展開が多く、雑な展開になってます)

(『404』の二人の捕まり方もシナリオ優先でした)


 この物語のテーマは『選択と結果』です。

 この物語では『一人』という選択肢は悪い結果を生み罠として用意されています。


 最終回で二人が見た『悪夢』も『一人』で行動した彼らが陥る結末の一つです。

 しかもあれは彼らの『暗い願望』を反映した悪夢でもありました。


『志摩』は『警察官として殉職する』ことを願い、

『伊吹』は『自分の手で悪党を始末する』という願望を叶えた形でもあります。


 でも、悪夢から目覚めた二人はそれが『間違い』であることに気付きます。

 二人が本当に求めているものはそんな『悪夢』ではありませんでした。


 二人が望んでいることは『命』です。

『大切な人が生きている世界』こそ彼らの本当の望みだったのです。


(伊吹が悪夢であっさり銃を撃つのもどうでもよかったからです)

(あのときの伊吹は蒲郡慈生に近い状態だったと言えます)


(陣馬耕平が助かったというのも大きいでしょう)

(二人が暴走したのも彼が車に引かれたのがスイッチです)


 それに気付いた二人はさっさと逃げ出します。

 船の上で犯人を追い詰めるわけでもなく、周囲に助けを求め逃げ出しました。


 この作品の集大成とも言えるシーンが『ここ』です。

『犯人を捕まえる』よりも、『大切な人の命』の方が重要なのです。


 不利な状況から逃げ出し、仲間の力を借りて再び犯人の追い詰める。

『警察』という『仲間の力を信じている』からこそできる選択でもあります。


 それは『蒲郡慈生』という一人の人間が選べなかった選択肢です。

 彼は『警察の力』を信じるべきでした。


 正義は『弱く』、警察は『無力』です。

 でも、弱くて無力だからこそ彼らは『力を合わせる』のです。


(警察に様々な特権が与えられているのも弱いからです)

(ゆえに本来、警察が暴走することは許されません)


(特権は信頼を失えば効果を発揮しません)

(警察が守るべき面子とは、本当は市民からの信頼なのです)

  

『蒲郡慈生』は『小さな正義』が証拠を集め、罪を裁いてくれると信じなくてならなかったのです。もっとも大切な人を失った彼にとってはそんなことは些細なことだったのでしょうけど。


『大切なモノを失えば、人は容易く壊れてしまう』


 これがこの作品のもう一つの『テーマ』です。残酷なことですが『志摩』が相棒を失った後も警察を続けられたのは、彼にとって元相棒はそこまで大切な人間では無かったからです。


 彼が悔いたのはあくまでも『彼を助けられた無かったこと』です。もちろん心に傷を負いましたが、それでも全てを失うほどの傷ではありませんでした。


『志摩』も『蒲郡慈生』も自分が『行かなかったこと』でスイッチを押してしまった(変えてしまった)人間ですが、彼らには『失ったものの大きさ』が違いました。


 そして、この物語の中でもっとも大きなものを失ったのが『久住』であったと推測できます。なぜならば、彼には『何もない』からです。


 結果に興味がなく、ただ誰かのスイッチを押し続ける男。それが『久住』という人間です。彼にとっては自分ですら『どうでもいい』のです。


 だから、警官を捕まえてもさっさと始末しませんし、彼らが逃げ出しても慌てるようなことはありません。『どうでもいい』からです。


 この物語の中で『久住』に対する情報はあまりありません。

 ヒントは『最終回』に描かれている『些細な違和感』だけです。


 例えば『東京オリンピック』のニュースを見たとき、彼の表情は何か奇妙な表情になります。そのあと『オリンピック』に抗議をする人々の話がでてきます。


 はっきり言えばこの演出は不自然です。物語の中に不自然の演出があることは、そこに『メッセージ』があることが多いです。


 この場合は『久住』という人間は『オリンピックに対して何かしらの想いがある』という『メッセージ』になります。


 他にも『久住』は『自分を他人の物語として語られたくない』という表現。『伊吹』が『許すか決める』と踏み込んだときの『流される』『十年』『神』という言葉。


 これらを繋げると一つの記憶が思い浮かびます

 それは『東日本大震災』です。


『東京オリンピック』は『復興五輪』とも呼ばれています。

 もちろんあれから十年近くが経ちました。

 

 その中には元の生活を取り戻せた人々もいるでしょう。

 でも、まだ『復興できていない人』はどうすればいいのでしょうか。


 あのときに全てを失った人は復興五輪という言葉に何を思うでしょうか。

 全てを失ったことですら自己責任という言葉で片付けられてしまうのでしょうか。


『久住』は『他人の物語』として語られたくないと言います。

 それは一年に一度、『東日本大震災』が物語のように語られるかもしれません。


 それまで皆忘れているのに。

 それまで見ない振りをしているのに。


 そのときだけ物語のように語り始める。

 誰かの都合で作られた物語が真実であるかのように

 

 だからこそ、彼は語られたくなかったのかもしれません。

 まあ、あくまでも小生の妄想ですが、その気持ちは少しだけ理解できます。


 あるいは『久住』は今も復興できていない場所に暮らしていたのかもしれません。

 あれほど騒いだのに、もう解決したかのように扱われるあの場所の近くに。


『久住』の過去は分かりません。ただ彼は物語として語られることを拒絶し、他人の物語を操るように生きていたことは確かでしょう。


 彼にとって『他人の物語を操る』ことだけが『自分の物語を勝手に語られた』ことに対する復讐だったのかもしれません。


 ゴミのように扱われる自分という物語に対する……。    


 ですが、最後に船の上で物語を操ることに失敗した瞬間、『久住』は自分のしてきたことの『虚しさ』を理解したのかもしれません。


 他人の物語を操ったところで、そこには何も無かったということに。


 たぶんそこでやっと『久住』は全てを失ったのです。

 後に残されたのは『生きていく苦しみ』だけでした。


 そこに『志摩』が言います。


『生きて。俺たちとここで苦しめ』と。


『生きて苦しめ』ではなく『俺たちと苦しめ』という言葉は、『志摩』も『伊吹』も苦しんでいるという意味でもあります。『久住』はその瞳に自分と同じ苦しみを見たのかもしれません。


 この物語で二人の抱える問題はあまり解決していません。

 この作品ではすっきり救われるという展開は無いからです。


『志摩』は結局『元相棒を救えたかもしれない』という後悔を抱えたまま生きていかなければなりませんし、『伊吹』は『蒲郡慈生』を救えなかったことを後悔しつつ、『邪悪を自分で裁きたくなる衝動』と戦わなければなりません。


 そして、それは『大切な人』を失ってしまえば容易く敗れてしまう戦いでもあります。人には誰にでも『蒲郡慈生』や『久住』のようになってしまう危険性があるのです。


 だからこそ『命は大切』なのです。

 それこそがこの物語でもっとも言いたかったことでしょう。


 物語は『志摩一未』という人間が間違えてもやり直せることを許容して幕を閉じます。それは自分も他人も信じられなくなり、間違いを許せなくなった人間が少しだけ変化したという証でしょう。


 当たり前ですが、正解だけを選べる人間などいません。

 些細な選択の結果が蝶の羽ばたきのように人を殺しているかもしれない。

 

 SNSの一言が。

 悪意の無い善意が。


 この世は間違いだらけで、『大衆の犯罪』を取り締まることは不可能です。

 生きているということは誰かを傷つけるということです。


 世界を見渡せば救える人間よりも救えない人間の方が多いです。

 でも、それは当たり前です。


 人は神ではありませんし、神になってはいけないのです。

 人間だからこそ大切な人の命を大切に思って生きていけるのです。


 例えそれが過去の思い出だとしても。

 それを大切に思えるならば人は生きていけるのです。


 という感じで感想終わり。  

 くそっ、感想が長い(汗)


 脚本が練りこまれているので感想を書くだけでも大変ですな。


(ちなみに『蒲郡慈生』と『久住』の違いは復讐相手の有無と推測)

(『久住』には復讐すべき(明確な)相手すらいなかったため、より壊れたかと)

 

(救いを必要としていない人間を救うことは不可能です)

(唯一の道は彼らが自分で自分のことを救う(許す)しか方法はありません)


 最終回の悪夢のシーンは賛否両論らしいですが、この悪夢のシーンこそが『404』の二人にとって最高のスイッチになってるんですよねー。


『夢』という現実ではないものですら『スイッチ』になるというのがこの作品らしくて素晴らしいと思いました。『久住』が仕掛けた『悪意』が逆に彼らの人生を救ったという皮肉でもあります。


 えっと、他に何か書くこと忘れてないかな。

 あ、作中で使われている曲の『感電』は素晴らしいですね。


 まあ、ドラマ見る前から良い曲だと思ってましたけど。

『米津玄師』氏の曲で一番好きな曲かもしれません。


 何か『あぶない刑事』を思い出すような歌詞が好きです(笑)

『あぶない刑事』再放送しないかなー。


『はぐれ刑事純情派』はけっこう再放送してるんだけどねー。

『西部警察』は再放送できないらしいですし。


 さて、内容的(テーマ的)に続編は難しそうだから、スペシャルドラマぐらいは見たいかな。今回は最終的に『機捜』の要素が薄くなっちゃったから、次は『機捜』の要素を十二分に活用した内容を見たいですね。


 はい、長くなったので終わり。

 一つの作品の感想をまともに書こうとすると大変です。


 やはり『てけとー』がいいですね。

『面白い』の一行で解決するとなお良し。


 でも、そうするとこの駄文を読む人がいなくなるので、こうして一生懸命書いているわけです。よく考えれば書く必要もないのですが、その辺りは見ない振りをしましょう(笑)


 あと、この『コロナ禍』では我々個人にも多くの選択肢が与えられています。

 その中には容易く人を殺せるものもあることに気をつけましょう。


 今まで同じと思って行動していると自分が知らないうちに人を殺してしまいます。

 弱っている人間に鞭を打つ場合は特に気をつけた方がいいかと。


 でわ、この辺で。

 まだ感想を書くのがあるので大変ですたい。


<メロンパンナちゃん>

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