読書記録『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』 感想(ネタバレ)

 遂にこの作品の感想を書く日が来てしまった今日この頃。カクヨム発の書籍化作品『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』の感想です。


 最初に断言しておきますが、今回の感想はまったく公平ではありません。

 理由はたった一つ。


 この作品が小生にとって『近過ぎる作品』だからです。

 

 稀に読者が小説を読んで『この作品は自分のことを書いている』という方がいますが、小生にとってはこの作品がそれです。作品の内容が痛いほど理解できてしまうため、他の人にとってはまったく役に立たない感想になるかもしれません。


 でも、カクヨムの作品ということもあるので、感想を残しておきましょう。

 自分の頭の中を整理するためにも、一度『言語化』するのは良いことです。


 さて、この作品は『(未来に発売した)架空ゲームのレビューサイトのまとめ本』という形式を取った作品です。そのため小説を読んでいるというより、ネットで実際にそのサイトを見ているという感覚の方が近いです。


 もっとも『ゲームレビュー』と言っても全てのゲームを対象にするわけではなく、たった一つの条件が付きます。それは『歴史的に低評価を受けたゲーム』を扱っているということです。


『面白くないゲームのレビューをしてどうするの?』

『分かった。クソゲーを馬鹿にする企画だろ』


 と思う方々もいると思いますが、この作品は低評価ゲームを馬鹿にしたり、笑い者にしようとする作品ではありません。


『低評価ゲーム』


 その言葉を聞けば、それがただの『つまらなかったゲーム』と思われてしまうかもしれませんが、実際のところ話はそこまで単純ではありません。


『クソゲー』と呼ばれる作品は直結して『低評価ゲーム』に分類されることが多いですが、中には『クソゲー』では無かったのに最終的には『低評価ゲーム』として分類されてしまうゲームも存在します。してしまうのです。


 例えば『スマホゲー』ではよくある話ですが、最初は『神運営』とか『神ゲー』と持て囃されていた高評価ゲームが、次第に『クソ運営』とか『重課金ゲー』として低評価となり、そのままサービスを終了させる場合があります。


 この場合、そのゲームは『高評価ゲーム』ではなく『低評価ゲーム』として人々の記憶に残り、実際にプレイしていなかった方々は『あのゲームはクソゲーだったんだろ』とばっさりと切り捨てます。


 ですが、そのゲームを初期からプレイし、『誕生』『繁栄』『衰退』『破滅』という四つのプロセスを全部通り抜けたプレイヤーにとっては、『低評価』という一言では終わらせることができない複雑な想いがあったりします。


 この作品の『レビュー』は『一つのゲームが低評価という評価に落ち着くまでの経緯』を一人のゲーマーの視点を通して語っていくというのが基本的な形です。


 一言で『低評価ゲーム』と言ってもそこに至るまでの道のりは様々なのです。徹頭徹尾クソゲーでプレイヤーたちを皆殺しにしながら低評価になるゲームもあれば、バランスが良くて面白い対戦ゲームだったのにパッチを当てるたびに評価が下がって最終的には低評価に落ちてしまったゲームなんてのもあります。


 この作品で語られる『低評価に至るまでの道のり』その一つ一つが主人公が実際に体験してきたことであり、それは主人公の人生そのものといってもよいでしょう。主人公が歩んできたゲーム人生。その証がこの作品に込められています。


 そのため一つ一つの『ゲームレビュー』がとても濃く、けっして『架空のゲームを紹介しているだけの作品』にはなっていません。

 

 そのゲームが発売された当時の環境も含めて、『なぜこのゲームが低評価となったのか』ということを実際に知っている主人公が語ってくため、失われてしまった作品へのノスタルジーを感じる内容になっています。違うのもありますが(笑)


 反面、『架空のゲームの設定』自体はそこまで説明されないので、『架空のゲームの解説書』として期待して読むと期待はずれになるかなーと思います。


 この辺りは一長一短でしょう。

 小生は今の形の方が面白いと思いますし。


 まあ、自称でもゲーマーを名乗る方ならばこの作品に共感してしまう部分も多いのではないかと思います。特に、


『ゲーマーとは救いようが無いアホウである』


 ということを理解している方々にはぴったりかと。


『作品を愛し、隅から隅まで堪能する』

『プレイヤー同士で協力し合い、新しい遊び方を見つける』


 これもゲーマーならば、


『自分たちで面白いゲームを食い潰す』

『他人が楽しんでいるゲームを破壊する』


 これもゲーマーです。


 時にはゲームを愛し、時にはゲームを憎む。

 それがゲーマーというアホウです。


 たった一つのテクニックがそのゲームを崩壊させる第一歩なんてこともあります。使えるものはバグでも使うのがゲーマーならば、面白くするために禁止プレイをするのもゲーマーなのです。もうめちゃくちゃなんですヨ(笑)


 この『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』という作品はそういったゲーマーたちの喜怒哀楽を描いたものでもあります。どこか物悲しく、とても馬鹿馬鹿しい。今もこの世界で繰り広げられている彼らの日々そのもの。


 それがこの作品の本質の一つかなーと思います。読みながら自分のゲーマーとして日々も思い出しましたよ。中には思い出したくない記憶もあったりして、読みながら眩暈を感じたりもしました(汗)


 すでに発売されているゲームとか小説などの名前が出てくるとこも良いですね。

『四八(仮)』は名前だけで笑いました。小生も面白そうだから買おうかなーと思った記憶が蘇りましたね。残念ながら未プレイですけど、今となってはプレイした方が価値があったかなーと。歴史的価値は難しいです(笑)


 まあ、こんな感じで自称ゲーマーである小生としては『カクヨムが誕生した意味はこの作品を書籍化するためだ』と断言できるほどの作品です。


 方向性は違いますが、『スラムオンライン』や『連射王』に匹敵するほどのゲーム小説かと。個人的な意見ですけどねー。


 小説としても上手い作品だと思います。『低評価』というオチが分かっているのに毎回引き付けられますし、それぞれが個々のエピソードでありながら時として繋がったり、レベルが高い作品かなーと。


 さてさて、ここで一つ好きなエピソードでもあげようかと思いましたが、物語の半分以上が好きなので無理でした。それぞれ違った読後感があって好きです。


『フォークロア・オブ・ノスタルジア』はまさに今この状況ですし、『AfterLife』や『天幻地在バトルマリオネット』は取り上げられた遊びのことを思い出します。『チンシルケイム』はゲーマーの本質をしっかりと描いてますし、『そしてまた去り行くあなたへ』の最後のオチはあるあると納得してしまいました。以下省略。


 いやはや、小生自身の記憶とも合わさって本格的な感想を書くと長期連載になってしまうので無理ですね。そういう意味ではそれぞれがプレイしてきたゲームによっても感想が変化する作品かもしれません。


 逆にあんまりゲームというものに関わって来なかった読者にとっては面白くないかもしれませんね。乙女ゲー小説も乙女ゲーを知らないとあまり理解できないみたいな。


 というわけで表の感想はこの辺りで。

 次は裏の感想です。


 今回とは『別のテーマ』の感想となります。

 よりネタバレが強いので、読んでない方は読まない方が良いと思ひますよ。


<続く>

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