十月の柳生十兵衛(実写版)
読書記録『イルミナエ・ファイル』(超ネタバレ)
では、時間も経過したので、ネタバレの感想を書きます。
超ネタバレですので『自己責任』でお願いします。
作品を読む前のこの文章を読むと、確実に損するでしょう。
そういう作品でもあります。
ま、忠告はしましたので後は知らんぷりん。
では、どぞー。
―――――
とにかく凄い作品である。
とても面白いのに、『目新しいアイディアが少ない』という点も凄い。
実際のところ一つ一つの要素を分解していけば、どこかで見たことのある要素が多く、SF作品として格別に優れた発想があるという印象はありません。SFとしての世界観もどことなく古臭く、読んでいて『懐かしさ』すら感じました。
おそらく発想として一番優れているのは『報告書』という形式にしたことですが、それもまったく見たことが無いというわけではありません。似たような作品だと『日記』とか『手紙』だけで展開されるという小説もあります。
まあ、ここまで徹底しているのは珍しいですが、徹底しているからと言って面白くなるとは限りません。そこに『面白い理由(存在価値)』がなくてはただの『自己満足』になってしまいます。
もちろん『報告書』という形を徹底したことにより、この作品形式を最大限に活用できていますが、あくまでも重要なのは『中身』なのです。
もっともその中身が『既存作品の寄せ集め』という感じなので、たぶん『あらすじ(内容)』を語ったとしてもあまり面白さは伝わらないと思います。
『じゃあ、何で面白いのさ?』
という疑問は当然思い浮かぶでしょう。
ですが、その理由は単純明快です。
『物語の見せ方が上手い』
のです。
作者はただ酔狂で『報告書という形の小説』を作ったわけではありません。
この小説には『その形式』が必要だったのです。
先ほど中身は『既存の作品の寄せ集め』と書きましたが、実際問題として『様々な要素を取り入れた小説』というのは成立させるのがなかなか難しいです。
登場人物は増え、内容は複雑化し、作者は書き難く、読者は読み難い。
そのうえ、『要素の組み合わせ』が上手く行くとは限りません。
『物語を壮大に見せようとして失敗する』
これはプロの作家さんでもよくある失敗です。個々のエピソードは面白いのに、それを一つの作品にまとめた場合『バラバラになってしまう』というのは、けっして珍しいことではありません。
『目新しいアイディアが少ない』というのはそれだけ『理解し易い』ということでもありますが、それでも多くの要素を詰め込んだこの『イルミナエ・ファイル』という作品にも同じような問題が発生してしてしまいます。
――本来ならば。
驚くべきことに、この小説は作品形式を『報告書』という形にしたことによって『様々な要素を詰め込んだ場合に起きる問題』の多くを解消しているのです。
『報告書』というのは報告しているわけです。
簡単に言えば『読んでいる誰かがきちんと状況が把握できる』書です。
つまり、それは内容が『分かり易い』という意味でもあります。
(メタ的な意味もありますが、これが必然というのは読んだ方には理解できるはず)
資料に記載された日付によって時間の流れは明確で、その資料(文章)を残した人物も(ほぼ)明記されている。あくまでも報告書であるため、普通の小説のような状況説明の文章は少なく、物語の進みも速い。
逆に言えば、それは『簡素』ということにもなりますが、『簡素』だからこそ『様々な要素』を詰め込めるわけです。
次から次へと『分かり易い情報』が提示されていく感覚は、小説を読んでいるというより『アトラクションを体験している』という感覚に近いです。
『ページを進めた分だけ物語が進行していく』
という言葉が一番正確かもしれません。昔『ゲームブック』という本がありましたが、『短い文章で物語がどんどん進んでいく』感覚はこれに近いような気がします。
そのうえ『様々な要素を綺麗に詰め込んでいる』ため『物語としての重み(深み)』までしっかりと存在している『すごーい作品』なのです。手当たり次第に『既存のアイディア』をてけとーに詰め込んでいるわけではありません。
例えば、この物語で『誰の判断がもっとも正しかったのか?』という疑問に対する答えは難しいです。なぜなら『人工知能が邪魔者を排除しようとした思考』と『人間が邪魔者を排除した思考』は同じだからです。
論理的に正しくとも感情的には間違っている。
感情的には正しくとも論理的には間違っている。
あるいは両方とも正しくとも失敗する。
人が機械的な判断を下し、機械が人のような意識を持つ。
この物語は単純ではなく、皮肉に満ち溢れています。
正しいと思った行動が悲劇を呼び、独断が不協和音を奏でます。
それぞれが自分の最善を突き詰めた結果、多くの破滅が訪れました。
ゆえに『誰が正しく、誰が間違っていたのか』ということを論ずるのはとても難しいです。『最初の引き金』という考え方も正しいとは言い切れません。
おそらくこの物語で悲劇を回避する方法は『互いに協力すること』だったと思います。それが出来たからこそ結末には希望が残ったわけです。
『わたし』ではなく『わたしたち』ということです。
最終的に『敵』に対抗できるのも『わたし』ではなく『わたしたち』だからでしょう。逆に言えば『わたし』である『人物』はこの先破滅するということです。
この『イルミナエ・ファイル』という作品は様々な要素を詰め込んで、それをきちんと読者に提供する超一流のエンタメ系小説です。
報告書という奇抜な形式に頼ったのではなく、それすらも『物語として必要な要素』だったと納得させるだけの説得力があります。
『素材』ではなく『料理方法』で勝負した作品と言えるでしょう。
とてもお薦めでございます。
――というのが『表』の感想。
すでに読んだ方は理解できているかもしれませんが、小生は前回も今回も触れていない部分があります。それはこの物語を更に素晴らしい作品として成立させている『重要な要素』です。
ここから更にネタバレですよ。
結末にも触れます。
小生が語らなかった要素。
それはこの作品が『ミステリー作品』でもあるという事実です。
これを明言すると確実にネタバレになるので、前回はわざと避けました。
この作品を最後まで読み終えると、ある事実が発覚します。
それは、
この報告書が『事件の内容を正確に報告した物ではない』という事実です。
この報告書は『ある人物に対する復讐』のために製作された物だったわけです。
勘違いをした読者もいるかもしれませんが、この作品の主役は『事件の渦中にいた人々』ではありません。『その事件の報告書を読んでいた誰か』こそが真の主人公であり、読者と同じ(近い)目線を持つ者なのです。
物語の最後でそれが『誰だったのか』ということは判明します。つまり、この物語を読み解くためにはその人物と『同じ視点』になることが必要なのです。
それによって『なぜこの資料が選ばれたのか(選ばれなかったのか)』という理由が判明していきます。その結果、読み始めた当初からあった幾つかの疑問が解消され、更に『その資料の持つ本当の意味』を理解できるようになります。
あの『死亡者リスト』の意味も。
ここまで書けば『なぜあんなにも長々と書いてあったのか』理解できるでしょう。
『多くの瞳が見つめる先に何があったのか』という恐るべき事実とその意味も。
まさに『復讐』なのです。
その事実に読者は最後まで気付くことはないと思います。
ほんとに『すごい』小説です。
ここだけは『他にも無いようなアイディア』じゃないかなーと思いました。
これを映画化しようとしているのだから『命知らず』だと思いますネ。
続編も翻訳して欲しいけど、これと同じぐらいの衝撃が得られるかどうか。
うーん、水曜どうでしょう(違)
ま、確実に年間ベスト5に入るぐらいの作品でした。
合わない読者には合わないでしょうけど(汗)
いつものいつもの。
時間があれば『考察編』も書く予定ですが、予定は未定というやつです。
いつものいつもの。
<わーぷ装置>
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