* * * * * *
「どうする、帽子屋?」
ミーシャが問う。ヴィントレス狙撃銃の
「僕のイクネウモーンが彼女たちの近くに潜んでいる。集音マイクを装備しているから、その会話から出方を見よう」
「了解。もし動きがあれば――殺していいんだな?」
「ああ…………彼は最悪、死んでも構わない」
【
「君を北朝鮮の海底プラントから逃がし、泳がせたのは正解だった。君は実に面白い――
「何だと?」
「離魂病――
「それは、――貴様、北朝鮮で私の
「いいや、僕たちじゃないさ。――君は、VIXENによるWET計画の被造物だ。WET計画――
「
「まあ聞けよ。VIXENという諜報機関の目算はこうさ。人間の記憶・人格とは脳のどこかに保存されている
「パーソナリティの再現……? だが、何の目的で」
「
「…………」
「君は、その実験体だ。そして、実に
「……本来の、私……?」
ふふん、と有栖は笑って続けた。
「アノニマ・プネウマ。もと『
「……天皇の抹殺……」
「それは日本国民を、ひいては天皇自身を
有栖はほとんど一息にそう言った。しばらく沈黙が流れた。
「子供っぽいやつだ。
それからミーシャが独りごちた。帽子屋が応えた。
「実際、子供なのさ。――うん、殺していいよ」
ミーシャは引金を絞った。音もなく放たれる九ミリの重い弾丸は、やがて到達し有栖の脳を吹き飛ばした。
反撃は来なかった。やはりブラフだったか。或いは頭が無ければ動けない傀儡どもなだけか……。空に輸送機が走る。
「――
誰ともなく呟いた。空から何かが舞い降りてくる。それは着地。パラシュートと酸素マスクを外し、長い
「――やれやれ。痛いじゃないか。複数形の僕を撃ってくれるなんて……」
流れてくるのは有栖の声だ。生きていた? いいや、疑似的に痛みを共有しているだけだ。アノニマの足元には変わらず有栖の死体が転がっている。だがその目の前に彼が
「やっぱりね。彼らを殺し続けてもまた
自らを納得させるように帽子屋がうんうんと頷いた。困惑するミーシャは訊ねた。
「どういう事だ、帽子屋?」
「彼は僕の探している
「待て、待て。――それじゃあ奴は、一つの意志や思考を共有する分散した
「分散型コンピューティングみたいなものだよ。
「それじゃあ何故、奴は日向有栖として振る舞っている?」
「
「奴という端末は一体いくつ――いや、
「計り知れないね。少なくとも二人目はここに現れた。奴らが確保した【子宮】の数は、三〇〇を超えるんだっけ? アポロが死んだのがおよそ八年前だから――それ以前からの計画であれば、いったい何人の日向有栖たちがこれまで産み落とされた事だろうね?」
「…………」
帽子屋が追い求めるオリジナルはともかく、日向有栖というアバターは
私は周囲の
「はじめまして――かな? 日向有栖。そろそろ、この話も
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