遺傳;或いは奏でない音楽と表記不可能な言語体系について
二〇一九年 ブラジル
キューバの
「今回の任務は、『
「
「半世紀以上も前の話だよ。物理的な資料が全てだった時代さ。それもほとんど灰になったし、関係は薄いだろう。『司教』によれば、『赤い水銀』は根本のメソッドが異なるそうだ」
「去年のテキサスでのハッキング事件、そして暴動……一般大衆を大規模に扇動できるとなれば、その影響力は計り知れない…………奴の自白に信憑性はあるのか?」
「私が直接尋問したんだ。その点は保証しよう」
「サディストめ……」
パラシュートを展開。減速。ハンドルを操作し落下地点を微調整する。足下に広がるのは未開拓の原生林だ。
「シェフはギアナ経由で現地入りしている。まずは彼と合流しろ」
「
アノニマは国籍を持たない。ゆえにその身分が保障される事は無い。わざわざ領空外から滑空、国境を越えて降下するのはそのためだ。木々の合間を縫って、着地。パラシュートを回収すると、降下用装備を収納する。目立った痕跡を残さない事がこの部隊の基本だ。
「香港から発った貨物船は日本に到着した。請負人は
「エコー分隊だな」
「日系フランス人だ。フランスの
「恐ろしい話だ」
「お前より年上だよ、アノニマ。日本人は化粧が上手いからな」
「わざわざ、学生として潜伏させる理由が分からないな」
「転校によって拠点を移すことが容易だからさ。未成年の女子というのは
「無駄骨に終わりそうだ。日本の法だとか民主主義は、元から機能していないんだろう?」
「それはうちだって同じさ……お前もそういう任務が良かったか?」
「遠慮する。男に媚びるより
オオアリクイが蟻塚から無数のアリを食んでいる。日本の沖縄から米軍の一部が台湾に移転し、東アジアの防衛拠点は緩やかに日本から台湾に移りつつある。それは韓国も同じで、米軍の保護が薄れ、より自衛戦力を欲した為に、その正当化の口実たりうる自作自演の
第四五代合衆国大統領が『二つの中国』論を採用してから、米中関係は緊張状態にある。他方、特にシリア内戦を中心とする中東問題はロシアとトルコにアウトソーシングされ、米軍は表立った展開をしなくなった。しかし米国の各機関は中東に広く分布するクルド人勢力を代理戦争の
日向有栖の組織『
二〇一六年のリオデジャネイロ五輪の際、ISILはポルトガル語話者をリクルートしたが、結局は
「『赤い水銀』と呼ばれる菌類は鼻腔から入ると嗅神経に寄生、前頭葉下部まで侵襲、深在性真菌症を引き起こす。だがその真菌は致命には至らず、日和見感染症に留まる。症状としては、頭痛、微熱、多少の混乱、
「それだけで暴動を引き起こせるとは思わないな。奴らの論理が大衆の共感を呼ぶとも思えん」
「既に大都市の鉄道網などで散布され、蔓延しているとの報告もある。薬物として鼻腔から吸引しても、同様に寄生される。空気感染の危険性がある。接触の際は防護マスクの装着を忘れるな」
「
アノニマは義手で装備を確認する。
「――シェフ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます