グレブナー基底と学友

第1話

留年したからといって大学へは行く。

そして、人間なので飯を食う。

ゆえに、俺は学食で焼きサバ定食を食べていた。

13時過ぎ、この時間帯の食堂は空いていていい。

平和な日常を、焼きそばと焼きサバを間違えることもなく、俺はのんびりと食後のお茶をすする。

しかし、その至福の時間もいつまでも続かない。


「だーれだ♡」

突然、視界が暗くなる。

どうやら背後から手で目を隠されたようだ。

ここで、普通のやつなら、「こいつう♡」とか言ってふざけ返すのだろうが、ところがどっこい、俺は留年生である。

仲のいい友達などすでに卒業してしまっているし、ましてや目を圧迫してくれるような彼女もいない。

つまるところ、のん気に飯を食べていたら、本当に誰か分からぬ者に、誰だと問われ、視野の自由を奪われたのである。

まあ、とりあえず、この状況だ。何か返事はしなければならない。

「えー?誰だろ?」

俺はなるべく人当たりのいい声でそう聞き返す。

「ひ・み・つ♡」

女の声だ。それも若い。

それにしても自分から聞いておいて秘密とは意味が分からない。

というか本当に誰だか分からない。

「えー♡まだ分かんないのー?」

俺が黙っていると、女はそう言って、自分の胸を俺の背中に押し付けてきた。

巨乳だ。

あ、いや、これは別に俺が巨乳が好きだとかというわけではない。

あくまでも、人物を特定するための1つの情報なのであり、それに動揺するわけなど断じてない。

手に持ったお茶をこぼさないように、頭の中で、若い女の巨乳の知り合いがいたかどうか、検索をかける。

いるわけがない。


「おい、いい加減に気づけよ」

視界が開けた瞬間、背中に激痛が走る。

俺は、うぐう、と思わず咳き込む。

背中を平手で思い切り叩かれたらしい。

いよいよお前誰だよ、と思うと同時に、まさかお前か、と脳裏に1人の人物が浮かんだ。

群城すず。

振り向けばやつがいた。

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