* * * * * *
ニクソン大統領が「南ベトナムは近く米国の支援なしに自国を防衛できるようになるだろう」と嘯いた。すると北ベトナムは一斉に攻勢に出た。米軍の地上部隊は既に撤退した。だけど彼らはここに居る。
九月は黒くなり西ドイツは中国と国交を結んだ。世界革命思想と赤色テロ。平和の祭典は血の赤に染まり、
<2nd time self-pity>
┃|:最近、分かってきた事がある。僕は復讐の為に生きている。生き残れる事は、結局のところ
┌―1
ジルベールは思った。
答えは簡単だ。それは誰も互いを理解しようとはしないからだ。あまつさえ、自分は相手を理解していると思い込んでいる。危険な態度だ。僕らは相手を理解できない。だから、自分は自分で相手は相手である。だからこその多様性であり、人種は文化は、思想は政治は宗教は、熔け合う
┌―2
有栖は思った。
答えは簡単だ。自分が当事者ではない戦争は、競争は、最高の見世物だからだ。全てはショー・ビジネスってこと。この戦争は、テレビで中継される初めての戦争。大統領の暗殺だって生中継されたのさ。運動会で親が子供を見に来るのは? 走るのは自分じゃないからだ。子供に結婚しろとうるさく言うのは? 自分はもう恋愛競争などしないからだ。孫の顔を早く見せろだなんて、僕の事は愛してもくれなかったくせにね。米国はソ連は、東西ドイツや南北朝鮮、そして僕らベトナムを
𝄋
何故戦争が起きるのか?
皇帝や君主が得をするから?
あるいは軍需産業が得を?
戦争はイギリスが、それともフランスが始めた?
大人たちの勝手で子供たちが死んでいく。
それは当たり前の話。
<1x tacet>
僕は彼らの代弁者じゃない。
君も僕らの代表者じゃない。
民衆が
手続き上は
だけど僕らは去勢され飼い慣らされた傀儡の道化者だ。
国家や政治は僕らの世界とは大違い。
問題は目の前の状況を生き抜く事だ。
それのみが
僕らには僕らなりの
何に
<to Codetta>
<solo>
僕らが理解も解釈も共感もされないのは、そうされる事を僕ら自身が拒んでいるからだ。そうしながら相手を心底軽蔑し、壁を作り、僕らは奴らとは違うのだと規定する。そうしなければ、曖昧な自己は境界を失い【僕ら】という線引きが曖昧になってしまうから。そんな事ではショーは成り立たない。第四の壁によって隔てられ、明確に他人と自分とが区別されていなくては。自分と全く関係の無い、赤の他人は
なんて、嘘ウソ、冗談だよ。ほんの
<D.S. al Codetta>
<Codetta>
あんた(たち)の
産まれてしまったものは、仕方ない。
(差別)表現なんて、単なるうわべの
僕らは言葉に意図や意志を乗せるものだなんて思い込んでいるから、
だから男性名詞と女性名詞の区別を失くせば男女差別は消えるし、全ての言語から所有格を失くせば、共産主義は達成されるなんて言う事が出来てしまう。
これは君たちによる
根幹たる感情や気持ちというものは、言葉にする事が出来ない。
言葉なんてものは全部
僕らは決して内なる何をも伝達する事が出来ない。
芸術は爆発だ。爆発は暴力だ。暴力とは
君自身の言葉を、決して他人に騙らせるな。
映画は、戦場だ!
* * * * * *
長い
当然付いてくる者は少なかった。その数は七人。
当然彼も打算だけで動いていた訳ではなかった。命令に違反しているとはいえ、捕虜を助け出されたら救出のヘリを寄越さないわけにはいかない。誰も置き去りにしないのが、アメリカの
ところで、さっきから、誰が他人事みたいに? 僕を見てるのは誰なんだ? なぜあんたに断罪されなくちゃあならないんだ? 僕が何の罪を犯した? 見られなければ、起きなかったのと同じ事。有栖は首から提げる地下室への鍵を――鍵を? 鍵が無い。どこにも無い。――ああ、きっとクジラを解体して、服を脱いで河を泳いだ時に――……待てよ。おかしいな。時間の軸が歪んでいる。
じゃあ、有栖の思う所の話を続けようか。鍵を失くした時、オズワルドがその鍵に気付いて拾ったのだ。古びた物々しい鍵だから、ただ単に、トゥイードルダムとトゥイードルディーの船の近くに落ちていたものだから。別段、大事なものじゃないんだろうとは思いながら。なんとなくそれを取っておいた。ポケットに入れて忘れていたんだ。それで、あいつは――ふとしたタイミングで思い出し、華子に打ち明けるわけだな。他に相談できる奴も居ないんだろう。孤独な奴だから。華子への恋慕を募らせて。僕と同じように(※この部分は墨で黒塗りしておく事!)。それで話しながら、オズワルドは思い出したわけだ。僕の地下室への扉の鍵穴を――虚数iのような、前方後円墳のような、クリトリスと陰裂のような――まあ何だって良いんだが、とにかくその形状をだ。地下室への階段を展開して、一歩一歩湿った階段を降り、扉の穴に鍵を挿入する。回すと確かな手応えがある。
華子とオズワルド、それに幾人かの子供たちは、僕の
それは小さな
みんなやってる事だろ? 有栖は思った。
人殺しも。誰かを踏み付ける事も。そしてその上に立つ事も。
競争は自然の営みなんだろ? 君たちだって略奪して生きている。誰かから、何かを奪って生きている。隣人からか、それとも地球の裏からか。それだけの違いさ。
僕は直接、奪っているだけ。君たちは間接的に奪っているだけ。
この競争システムは自然主義によって肯定されるんだろ?
まるで自分が相手を、いちばん理解した風を装って。
彼らを利用して、自分の功績に仕立て上げている。
君たちだって僕の立場なら同じ事をしたさ。
自分ばかり、綺麗なフリをしてさ。
批判する事が正義であるように。
客観視できるという事が正しいように。
自分の感情を入れない事が、冷静であるように。
理性の名の下に、人を断罪し免罪符を売っている。
まるで赦免の特権を君だけが持っているかのように。
気に入らない奴を徹底的に攻撃し、自分の事を守っている。
――僕と君は、同じなんだよ。
殺人ピエロの
「――ここで、何を、していた?」
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