* * * * * *

 ニクソン大統領が「南ベトナムは近く米国の支援なしに自国を防衛できるようになるだろう」と嘯いた。すると北ベトナムは一斉に攻勢に出た。米軍の地上部隊は既に撤退した。不正規戦部隊ブラックオプス。ジルベール軍曹は有栖に伝えたのだった、北ベトナムにはまだ捕虜が仲間が捕まっていて、そいつらを助けてやらなくては、と。あいつらを助けられるのは俺たちだけだ、とも。もはや彼らが政府おかみの命令で動いているのか、それとも自分の意志で留まっているのか。それは分からなかった。

 九月は黒くなり西ドイツは中国と国交を結んだ。世界革命思想と赤色テロ。平和の祭典は血の赤に染まり、競技・娯楽エンターテインメントは政治(広義)の毒に穢される。政治性を有していない個人的な戦争と競争は、なんと純粋愛されていない・影響を受けていないで耽美な暴力であることか。想像してごらんよ、政治の無い世界を……。のシンプルな原則。『命には命を。目には目を、鼻には鼻を、耳には耳を、歯には歯を。すべての傷害に同等の報復を』。コーラン食卓アル・マーイダ章第四五節。『……しかしその報復を控えて赦すならば、それは自らの罪への償いとなる』。裁きは、神に任せなさい。神の下された法に従って裁判をなさい。福音の信者であるキリスト者には、同じく神の示されたその福音によって裁かせなさい。そうしない者は不義を行う不信心者カーフィルである。主の掟に背く者である。


<2nd time self-pity>

┃|:最近、分かってきた事がある。僕は復讐の為に生きている。生き残れる事は、結局のところカデンツァなんだ。僕らはと思って何者かになれるわけじゃない。僕らは神への信仰を失ったが社会や経済という幻想への信仰を失ってはいない。何者・何物だって誰かの神様になれるんだ。金だろうが恋人だろうが。生きる指針に縋る事を信仰と呼ぶ。積極的格差是正アファーマティブ・アクションも、政治的正しさポリティカル・コレクトネスも。多数派の人間はthe Majority of people, 生まれつき多数派の側にsince they just belong to 属しているというだけでthe side of natural-born majority, 差別が許されるthe Discrimination is granted. (for whose?)。だから、結局は、マスゲーム。人間は孤独ソリタリーだから互いに絆・連帯ブントして自身の正しさを確かめ合う。夫婦が契約行為でなく心で繋がるように。愛し合うって、そういう事。その理屈リクツで言うなら、社会多数派に対しての少数派暴力ゲバルトは認められてしかるべきだよね。愛し合っている人間も、子を為す生殖主義者も。去勢された男の子たる僕のは世界。それを甘えや自己責任と呼ぶのなら、人間の価値っていうのは単に、君の所属しているが偉いかどうかの競争でしかないよね。三高、エリート主義、キャリア・ウーマン。がデカいかが締まるか。顔が美人かブサイクか。どちらの核兵器が強いのか。手足が無いのか脳が無いのか。遺伝的競争。宇宙競争と核抑止。利己的な遺伝子。僕らの設計図ブループリントは僕らの社会的立場をも既に決定していて、設計が悪かったか、それともが悪かったのかを議論している。だいたい、中立なんて、下らない! 右翼は戦争や経済競争、抑止力による自衛と保護と平和を肯定しながら、人民の革命に伴う暴力を許さない。左翼は平和と調和と非暴力とを謳いながら、その行動はマスゲームに伴う数の暴力と選民的な優生思想とに耽溺している。僕らは? ? ? 

┌―1

 ジルベールは思った。

 答えは簡単だ。それは誰も互いを理解しようとはしないからだ。あまつさえ、と思い込んでいる。危険な態度だ。僕らは相手を理解できない。だから、自分は自分で相手は相手である。だからこその多様性であり、人種は文化は、思想は政治は宗教は、熔け合う坩堝るつぼでなく並立共存のサラダボウルなのである。これは、お分かりのように、トートロジーです。僕らは誰にも理解される事はない。共感される事もない。自分自身で創り出した、都合の良い内なる神自分自身との対話を除いて……。:|┃

┌―2

 有栖は思った。

 答えは簡単だ。自分が当事者ではない戦争は、競争は、だからだ。全てはショー・ビジネスってこと。この戦争は、テレビで中継される初めての戦争。大統領の暗殺だって生中継されたのさ。運動会で親が子供を見に来るのは? 走るのは自分じゃないからだ。子供に結婚しろとうるさく言うのは? 自分はもう恋愛競争などしないからだ。孫の顔を早く見せろだなんて、僕の事は愛してもくれなかったくせにね。米国はソ連は、東西ドイツや南北朝鮮、そして僕らベトナムを代理戦争ヴァーチャル・ゲームキャラクターとして……。親はその子を自らの若かりし頃の姿と虚像ヴァーチャルさせて……争わせる。


𝄋

 何故戦争が起きるのか?

 皇帝や君主が得をするから?

 あるいは軍需産業が得を?

 戦争はイギリスが、それともフランスが始めた?

 大人たちの勝手で子供たちが死んでいく。

 それは当たり前の話。


<1x tacet>

 僕は彼らの代弁者じゃない。

 君も僕らの代表者じゃない。

 民衆がちから挙手する為の右手・権利を持っているなんてのは、偽りの希望だ。

 手続き上は法律と憲法ことばで、国民主権・内政不干渉僕らの自由を謳ってる。

 だけど僕らは去勢され飼い慣らされた傀儡の道化者だ。

 国家や政治は僕らの世界とは大違い。

 問題は目の前の状況を生き抜く事だ。

 それのみが現実リアリティ。契約も法もまた、共同幻想。

 僕らには僕らなりの基準ルールがある。

 何に価値範囲があるかは僕らの言語文法が決める。

<to Codetta>


<solo>

 僕らが理解も解釈も共感もされないのは、そうされる事をが拒んでいるからだ。そうしながら相手を心底軽蔑し、壁を作り、とは違うのだと規定する。そうしなければ、曖昧な自己は境界を失い【僕ら】という線引きが曖昧になってしまうから。そんな事ではショーは成り立たない。第四の壁によって隔てられ、明確に他人と自分とが区別されていなくては。自分と全く関係の無い、の他人はわらい物にして良い。そこに悪役が居なくては! インディアンにナチス、ゾンビ。黒んぼニガーに毛唐、アジア人イエローモンキー共産主義者アカ。Noël 70。無法者に保安官、マフィア、警察、ロシア人にイギリス人。CIAやら、FBIやら。火星人だったり、金星人、あるいは男か、女か。火星にも生命が? 大暴れする水兵に、野蛮人がやって来るぞ。保安官が無実の人を苛めている。ネズミ色の髪をした女の子の眺める銀幕は敵、敵、敵で溢れてる。来たる一〇月三〇日は僕の誕生日だ。今年で十一になる。ツァーリ・ボンバの爆発と一緒に生まれた。という幻想を僕は今でも抱いている。だいたい、生まれた時の記憶なんて無いのだから、僕が何歳かだなんて、周りが勝手に決めた事。僕が好きに決めて良い。僕の名前も、性別も、年齢も、所属も。それが自由と自己決定と意志の尊重というものだ。僕を敬え。僕を崇拝しろ。君の権利と自由と機会とを、僕に明け渡すのだ。それをしたのが宗教であり、のちの近代国家システムであった。互いに譲れない物があるから、僕らは決して融け合うリクヮデイション事は無い。愛し合うアフェクション事もない。排除し合う事で互いを保存できる。それを自由意志を持った独立した個人と呼ぶ。個人による所有。蒐集とはすなわち不在を埋める為。所有こそが男性の本質。性器を欠いた非男性性の有栖は象徴ファルスを蒐集する事でその不在を埋めようとする。指や、性器や、耳とか、蝶形骨。蝶の標本、ホルマリン漬けの胎児。或いは恋人や配偶者。僕らは他者を利用するが他者も僕らを利用している。お互い様じゃないか。何を、自分ばかり綺麗なフリをしてさ。流行らないのは実験小説じゃない、プロパガンダのほうだぜ。だからこの小説おはなし失敗作abortionってワケ。まるで表面上は、主題が政治的主張であるかのように振る舞うから。君たちは政治的な話が大好きだろ? 誰が味方だとか、敵なんだとか。レッテルを貼って安全地帯ノーマンズ・ランドから攻撃するのが大好きだ。だから、僕は、その君たちのチンポの矛先としてのケツ穴ソドミーを晒してるって次第さ。君たちは、僕のひり出したクソからピーナッツを探して食え。

 なんて、嘘ウソ、冗談だよ。ほんの冗句ジョーク。本気にした? 笑えないって? いつも笑えない冗談ばかり言っているのはお前ら僕たちのほうだろ。差別表現によって本当に傷付いているのは、【誰】なんだ? のは【誰】なんだ? 差別表現を失くし挿げ替える事で傷付けられた被害者がのではない。修正なおすのだ。傷付いた被害者たちとを食い物にする利権ヤクザの境界は酷く曖昧で、なんなら、愛によって繋がっていると言ってもいい。君は現実に対処している? 僕の言葉は机上の空論ばかり? 問題になっているのは、【ことば】だろ。上部構造が下部構造を逆立して規定するのか? 土台からじゃなくツリーのてっぺんの星飾りから設計するなら、そうなるだろうさ。そしてバベルのように崩れ落ちるんだ。ばかり気にしてさ。常識・貨幣・価値ポリティコン・ノミスマを変えよ。誰も傷付けたくないなら、傷付きたくないのなら、表現する事など辞めてしまえ。表現を消費する事を止めてしまえ。神は死んだのだ。僕たちとお前たちとで殺したのだ。だから、君自身が新たに生きる規範を創り出す事だ。そして何遍生まれ変わっても誤りや間違いを含めても自分が正しかったのだと、信仰しなければ。新たな表現を産み出す事を止め、古き時代の差別的な遺物こどもたちを根絶やしにしろ! 村に火を放て! 共産主義は劣等人種に宿る! 柱時計グランドファーザークロックを巻き戻せ! 法の不遡及を反故としろ! ナチスの子供はナチス! 犯罪者の子供は、犯罪者! 気狂いの子供は、気狂い! 赤ん坊のヒトラーを撃ち殺せ!

 僕ら君たちは子宮を持たない女だからして子を孕む事能わず、また男根を持たない男だからして子を為す事も出来ず。これは、レイプで産まれたは愛されるを愛する事が出来るかという問題です。堕胎罪と三四三人のマニフェスト。ジゼル・アリミとシモーヌ・ド・ボーヴォワール。【女性の為に選択する】。僕たちという生命いのちはマザーファッカーの父なる神が母なる祖国と地球とをレイプして産まれた。生命とは糸粒体ミトコンドリアの伝達の為であり、DNAが変化していく時代と環境に適応する為に数多の子を為し、突然変異アノマリーや奇形児を産み、生き残ったモノが後世に伝えられる。しかし生物の本懐は子孫を遺す事だと言います。闘争領域の拡大は恋愛至上主義は結局のところ敗者の生産くらいしか能が無かった。僕らは生き残る為に、群体としての遺伝子/模倣子プールの純度を高める? 【個】を失くした超個体の一つとして? 生存競争は正しい事? 民主主義じゃあ、手続き上僕らに主権が存在するから? 同様に競争社会とその下部構造たる経済システムは正しい? その為には法を破っても許される? 詭弁だ、自然主義的誤謬だ! 僕たちは獣ではないから理性的に互いを戦争と競争の名目において絶滅し合う事で種の進化が図られると。僕らの決断デシジヨン行動ラクシヨンはすべて遅すぎたのだ。だから何もかもうまく行かなかったし、失敗してしまった。この物語が失敗作abortionであるように。奇形児は忌み子バスタード堕胎abortionしてしまったほうが良いという事なんでしょう。傷付けられた母国ははなるの事を僕らは愛する。だから、もう僕の事を産まなくても良いんだよ。あなたの決断は全て正しい。僕らは互いに傷つけ合っているのだ。政治と民衆は互いに抑止し合って緊張状態が生まれる。いっぽうは権力を、一方は革命権を。しかしながら、皆が架空のジョー・アベレージとなった方が良いのでしょう。それがこの世界の純血主義と、優生思想なのだから。

<D.S. al Codetta>


<Codetta>

 (たち)の正気コレクトネスを僕に押し付けるな。

 産まれてしまったものは、仕方ない。

 (差別)表現なんて、単なる言葉パローレだよ。

 僕らは言葉に意図や意志を乗せるものだなんて思い込んでいるから、上部構造幻想・表層だけを挿げ替えて物事に対処した気になってしまう。

 だから男性名詞と女性名詞の区別を失くせば男女差別は消えるし、全ての言語から所有格を失くせば、共産主義は達成されるなんて言う事が出来てしまう。

 これは君たちによる断種ジェノサイドだ。

 根幹たる感情や気持ちというものは、言葉にする事が出来ない。

 言葉なんてものは全部ウソフィクションだ。

 僕らは決して内なる何をも伝達する事が出来ない。

 芸術は爆発だ。爆発は暴力だ。暴力とは人の営みアートだ。人の営みアートとは、すなわち戦争だ。

 君自身の言葉を、決して他人に騙らせるな。

 映画は、戦場だ!


* * * * * *


 長い独奏ソロが終わった。射精が爆発して卵と結び付いたり、着床したりする。或いは流産する。それとも、これはソロオナニーだから元々、子供が生まれる事なんてないか。二二週以内なら殺人にはならない。同様に、我々は動物を殺人murderすることは出来ない。敵はただ【殺すkill】。奴らを動物けものと思え。オスのネズミにもまた、他のオスとの子供を殺す種もある。非実在青少年のセックスを裁くようにネズミも裁判にかけられるべきでは? そっちこそどうなんだ主義Whataboutism。詭弁と誤謬ばかりだ。他人をニンゲンとして尊重していないから。公正世界信念と犠牲者非難。想像する事は、難しい。色が光の反射であると理解していても、色覚の無い人間がその刺激を受け取る事が難しいように。不治の病に罹ったのは前世の行いが悪かったから。強姦や痴漢の被害に遭うのは女の方も警戒が足りなかったから。あまつさえ、服装で誘ってたんじゃないのか? 第三世界の子供が貧困や紛争のせいで死んでいくのは、努力が足りないから。やろうと思えば、周囲の環境や世界を変える事も出来たはずだ。? 悪いのは本人の落ち度。自己責任self-responsibility。自業自得。僕は悪くない。世界は正しく出来ている。で僕は君たちに確認しておくが、世界は公正に出来ていない。まして公平でもない。ただ目の前に状況があるだけだ。それに対応responseするだけ。ジルベール軍曹は上官おかみの命令よりも自らの良心と思惑に基づいて、自らの応答・責任レスポンシブルに於いてこの地に留まった、と強調しておこう。

 当然付いてくる者は少なかった。その数は七人。勇壮な七人マグニフィセント・セブン。ジルベール、DM、グエンを始めとして、迫撃砲手モーター選抜射手シャープシューター工兵エンジニア支援射撃兵マシンガンナー。もはや前線や防衛戦を維持するというレベルの話ではない。先の作戦行動によって街へ繋がるネズミどもの潜り込むラット・トンネルは分断したものの、いずれ訪れる街への本格的な攻撃に対しての遅滞行為に過ぎないだろう。だからジルベールは一撃離脱のゲリラ攻撃と捕虜救出とにその少数精鋭たる戦力を集中させていた。

 当然彼も打算だけで動いていた訳ではなかった。命令に違反しているとはいえ、捕虜を助け出されたら救出のヘリを寄越さないわけにはいかない。誰も置き去りにしないのが、アメリカの規範ルール。そうでなければ対外戦争なんて士気タテマエは湧かない。そもそもこれは、アメリカの戦争じゃあなかったか。

 ところで、さっきから、誰が他人事みたいに? 僕を見てるのは誰なんだ? なぜに断罪されなくちゃあならないんだ? 僕が何の罪を犯した? 見られなければ、起きなかったのと同じ事。有栖は首から提げる地下室への鍵を――鍵を? 鍵が無い。どこにも無い。――ああ、きっとクジラを解体して、服を脱いで河を泳いだ時に――……待てよ。おかしいな。時間の軸が歪んでいる。時間のやつが潰されるのKilling timeに嫌気が差してヘソを曲げたに違いない。だってクジラの解体をしたのも、帽子屋に戦車の修理を依頼したのも同じ前話の中で、四、五ヶ月はかかるという話だったじゃないか。同話の中でそんなに時が経ったのか? 台本・設計図プロットにはそう書いてあるのに。――いや、構わないさ、状況を続けよう。いつも首から提げていた鍵が無い。僕は何故だかそれに気付かなかった。地下室には色々なルートで出入りする事が出来る(鏡の裏とかね)から、僕は対処療法的に対応レスポンスしていたので構わなかった。こうすれば道理Dàolǐが通る。実際はクジラを解体した時に鍵を失くしたという信念が間違っていたという方が現実だったと思うのだけど――。僕が失くした事に気付いたのなら、鍵を取り替えさせるなりの対応をしたはずなんだよな。何故、こんなミスに気付かなかったのだろう。何故、僕らはちゃんと対応できなかったのだろう。何故、僕らは失敗してしまったのだろう。有栖は珍しく後悔していた。その理由はそのうち述べます。この場合、後悔が先に立っている。

 じゃあ、有栖の思う所の話を続けようか。鍵を失くした時、オズワルドがその鍵に気付いて拾ったのだ。古びた物々しい鍵だから、ただ単に、トゥイードルダムとトゥイードルディーの船の近くに落ちていたものだから。別段、大事なものじゃないんだろうとは思いながら。なんとなくそれを取っておいた。ポケットに入れて忘れていたんだ。それで、あいつは――ふとしたタイミングで思い出し、華子に打ち明けるわけだな。他に相談できる奴も居ないんだろう。孤独な奴だから。華子への恋慕を募らせて。僕と同じように(※この部分は墨で黒塗りしておく事!)。それで話しながら、オズワルドは思い出したわけだ。僕の地下室への扉の鍵穴を――虚数iのような、前方後円墳のような、クリトリスと陰裂のような――まあ何だって良いんだが、とにかくその形状をだ。地下室への階段を展開して、一歩一歩湿った階段を降り、扉の穴に鍵を挿入する。回すと確かな手応えがある。やったねHooray、この鍵が地下の国への入り口だったのだと。判明してしまったわけだ。だって、そうでなければ、この状況に説明が付かない。

 華子とオズワルド、それに幾人かの子供たちは、僕のさなぎたる地下室への入場を果たしている。その壁は頭蓋骨で埋め尽くされ、骨と皮で作られた椅子や作業台、蝋燭立てに火は点され、防腐処置エンバーミングを施された電気椅子のフランケンシュタインもいつもと同じように座っている。は散乱していて(恥ずかしいな)、は腐敗を始めている。融けた脂肪が流れている。ベルゼブブが唸っている。

 それは小さな納骨堂コストニツェのようだった。蝶形骨と耳を蒐集している。刑事の華子は拳銃を固く握っていてオズワルドは目前にしている物が信じられないといった様子だった。何人かの子供は吐いている。僕は、それが、理解できなかった。華子たちがこの地下室に居る事でなく、彼らがヒトの死に今更、驚愕びっくりしてるって事が。

 ? 有栖は思った。

 人殺しも。誰かを踏み付ける事も。そしてその上に立つ事も。

 競争は自然の営みなんだろ? 君たちだって略奪して生きている。誰かから、何かを奪って生きている。隣人からか、それとも地球の裏からか。それだけの違いさ。

 僕は直接、奪っているだけ。君たちは間接的に奪っているだけ。

 この競争システムは自然主義によって肯定されるんだろ?

 まるで自分が相手を、いちばん理解した風を装って。

 彼らを利用して、自分の功績に仕立て上げている。

 君たちだって僕の立場なら同じ事をしたさ。

 自分ばかり、綺麗なフリをしてさ。

 批判する事が正義であるように。

 客観視できるという事が正しいように。

 自分の感情を入れない事が、冷静であるように。

 理性の名の下に、人を断罪し免罪符を売っている。

 まるで赦免の特権を君だけが持っているかのように。

 気に入らない奴を徹底的に攻撃し、自分の事を守っている。

――僕と君は、なんだよ。

 殺人ピエロの日向有栖ひむかいありすは、君の事なんだ。

「――ここで、何を、していた?」

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