* * * * * *

(以上が故人作者の遺言です。裁判を続けます……)

(では、くびを刎ねてしまってよろしい)

(まだです、女王様! 評決が先、宣告が後にございます)

(私に口答えするか! の馘を刎ねておしまい!)

(死体の作者はギロチン台に固定されると、チョッキン・ガー! その生首を読者の下に晒すのであった……)

(ちょっと待て。それじゃあ、いまによってこの文章を記述しているのは、いったい誰なんだ?)

<respice in me, et miserere mei, Domine: quoniam unicus, et pauper sum ego>

<salvum fac dextera tua, et exaudi me>


* * * * * *


 ああピアフが死んでいる。正確には惜春鳥メボソムシクイの事だ。このスズメに似た鳥は日本で繁殖し中国や東南アジアで越冬する。“おお牛たちよ、渡り鳥のように翼があれば、屠殺される事も無かったろうに……、主よ主よドナ・ドナ……”とユダヤ人が唄っている。孤独は、孤独によってのみ、。猫のダイナのお墓には気持ちだけを埋めてその肉は僕自身が鍋にしてんだっけな。強欲な■■■■■■人は肉のみならずその皿まで食べる。(毒を食らわば、皿まで)

 何故今まで忘れていたのだろう。僕は作曲者コンポーザーでなく分解者デコンポーザーだったんだ。だから、この人生の記述は、楽譜とは違う。それはバラバラになった死体と排泄されたクソだ。それは分かっていた事じゃないか。それは分かっていた事じゃないか……。

「用事は済んだの?」

「ああ」

父親カミを殺してきた。モーゼル二五口径の九発を叩き込み、動けなくなったところを、生きたまま抗日大刀でその馘を刎ねたのだ。娼館からの情報は役に立った。その場限りの享楽はその場で棄てる。娼婦に愛情を注がないのと同じように。華子は何も話さなかったが、この父親というのが娼館および中国系の元締めであり、そしてこのな復讐の結果として娼館自体の安全が危ぶまれることが考えられただろう。

 しかしながら、すぐ目前に迫っているのはより大きな構造の暴力、戦争なのだ。ゆえに結果的にはその影響は微々たるものだった。だから、表立って彼が糾弾される事にはならない。

「結果だけが全てよ」

娼婦の彩芽がそう言った。ギリシャ文明とルネサンス。家父長制。ウーマン・リブ運動と、それを象徴する上下一揃いのランジェリー。去勢された女。【個人的な事は政治的な事】。

「それなら、全ての物語は末から描かれるべきだな」

そして今はケツの時代だ。華子が答えた。過程を重んじるのは敗者の言い訳に過ぎない。二人は建物の曲がり角に(まるで偶然居合わせただけかのように)他人のフリをしながら会話を続けた。

符牒あいことばを設定しなくては」

「そっちを訪ねるコール・ガールとき、間違って撃たれないようにね?」

「今時分、誰が敵か分からないからな」

「アジア人は皆同じに見える?」

「人間がみな同じに見える」

「少なくとも、(銃を)向ける相手を選んでよね」

「――(守るべき)娼婦たちはいつ来る?」

「今に話すわ」

「人数は?」

「今に話すわ」

「期間は?」

「今に話すわ」

埒が明かないので華子は話題を変える。

「奴らに、虫草を売ったのか?」

「中国人には高く売れるのよ」

「あれはで採れたものだ」

「物資に入り用なら、領収書でも持って来て頂戴」

どうせそのうち、ただの紙切れになるわ。

「まあいいだろう。娼館の警護は?」

元締めが殺されたとなれば場は荒れるだろう。

「今のとこ、入り浸りの米軍だけで足りてるわ」

「あのロクデナシどもが?」

「力の誇示としては役立つわ」

「いずれ(奴らは)撤退する事だろう」

「そうでしょうね、」

でもには関係ない事だわ。

「装備と糧秣を揃えておく。しばらく籠城出来るくらいのな」

蒐集とはすなわち不在を埋める為。所有こそが男性の本質。個人所有こそがこの資本主義男性的とされる社会の本質。では女性とは? 所有される事ではない。想像上のものでしかない物質界に属していないのだ。だから、誰も、を所有する事はできない。言葉狩りと表現規制の本質は、男が女を所有物とし隷属させる事だ。

「あの餓鬼どもに何が出来るのか、見物みものだわ」

「戦争は数だ。多いほうが勝つ」

じゃあ、年齢は? 【産めよ殖やせよ】ってワケ? そんな役割に押し込められるのは御免だわ。

「あんたの兵隊は足りるわけ?」

「不足している」

そこは正直なのね。

「人足を集める?」

「余所者を入れたくない」

「じゃ、どうするつもり?」

「奴らが自ずに互いに、勝手に死ぬように仕向ける」

なるほど戦略ね。地雷や罠、それに陽動作戦と偽情報ディスインフォメーション工作……。華僑系マフィアとベトコンが互いに殺し合ってくれれば、しめたものだわ。メリル略奪隊のように……浸透と奇襲を繰り返す……。

「――それじゃ、契約成立のとして、」

二人は初めて目を合わせた。

「あたしと寝る?」

華子は何も言わなかった。

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