第6話
家に帰ると、父―渉が、夕食の準備をしていた。
「たたいま。」と言って、泣いて赤く充血した眼を見られないように、自室に急いで向かった。制服から普段着に着替え、鏡で自分の顔を見て、目の充血が少しおさまったことに安堵を覚え、居間に向かう。
父は、手際良く野菜を包丁で刻み、鍋に入れる。牛肉を電子レンジで解凍し、また鍋に入れる。今日の夕食は水炊きのようだ。
鍋を机のカセットコンロに置いて、あくを取っている。
私は、炊飯器からご飯をすくい、茶碗に盛る。
私たちは椅子に座り、「いたたぎます。」と言い、夕食を食べ始める。
父は、水炊きから私の分を取り出しながら
「学校でうまくやれてる?」と聞いてきた。
私は、ごまかそうとしたが本当のことを言った。
「そうか。大変だったな、でも、いい機会じゃないか。学生生活をもっとエンジョイしなよ。」
「でも……」
「アリサは母さんに似て真面目だからな。決めたことはとことんやる。」
「父さんはどうしてお母さんと結婚したの。」
私は話を意図的にそらす。
「なんだろう。上手くは言えないが、前向きで明るく、だれにも優しく接することができる大きな心を持っていた。そこに魅かれて、僕は彼女にもうアタックしたんだよ。」
「ふーん。」
「自分は苦しいのに、人にそこまで配慮する彼女に……。もちろん、容姿が僕のタイプだったからね。」
父は恥ずかしさから冗談を言った。
私は父の冗談で少し気が楽になった。
「しばらくは学生生活を楽しんでみるよ。もしかしたら、彼氏が出来るかもしれないし。」
その言葉で父が咳き込む。
「ほどほどに楽しんでください。彼氏を作るなどまだ早いよ。」と懇願するように言う。
私は笑った。ひさしぶりに心から笑った。
夕食を食べて、鍋や茶碗などを洗った後、お風呂に入り、健やかな気分で就寝した。
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