第2話

 私は母の墓の前で、手を合わせて拝んでいる。

母は、私を産んですぐに亡くなった。寛解していた骨肉腫が肺に転移したからだ。

母のアイドル人生を奪ったのも骨肉腫だ。大きなLIVEを控えた大切な時期のダンスレッスン中に右腕に違和感を感じたらしい。すぐに病院に行き、精密検査を受けたところ、骨肉腫と診断された。幸いなことに早期に発見したので、入院し放射線治療などで寛解に至った。

 当然、LIVEは中止になり、母の早期復帰は難しく、EXISTANCEの残る四人のメンバーとプロデュ―サーの話し合いの結果、解散することになった。母の代役を新しく入れるという案はでたものの暗黙のうちに却下された。

 五人のメンバーはとても仲が良く、共に支え合ったり、時にプロ意識による互いの相違により、喧嘩もするがすぐに仲直りする。同士でありライバルでもあった。

 私は拝んだ後、空を見上げていた。透き通る青。

 「アリサちゃ~ん」

 声の聴こえる方をみると、ショートカットの女性の姿が手を振りながらこっちに向かってくる。

 「チカさん。久しぶりです。」

 チカさん―浅井チカ。元EGISTANCEのムードメーカー。―は、現在、ダンスインストラクターをしていて、子供達にダンスを教えている。そのため、体がとても引き締まっている。それがチャームポイントの大きめ目をさらに印象深くさせる。

「アリサちゃん。大きくなったね。身長も胸も。」

「同性だからって、セクハラですよ。」

 私は笑って指摘する。

「いいじゃないへるもんじゃないし。」

 チカさんは相変わらず明るい。母が亡くなった時もその明るさで私を支えくれた。

「イズミが亡くなってから、もう17年も経つのかー。」

「そうですね。」

 二人でお墓を見ながら、思いを募らせていると、EXISTANCEの残り三人のメンバーがおしゃべりしながら、寺へ続く階段を登ってくるのに気付いた。

「チカ。なんで待ち合わせの場所に早く着いたかて、先に行ってしまうの。あんたはいつもそうやな。我慢でできん質や。」

「ごめん。でもどうせ、みんなでここに集まるから、いいかな~あと思って。」

「そんなわけあるかい!うちらだからいいもの……」

関西弁でチカさんを説教しているのが荻原メグミさん(旧姓新藤)―元EGISTANCEのトーク担当でLIVEのMCやバラエティー番組でメンバーを仕切っていた―だ。以前より、少しふくよかになった。

  隣で微笑んでいるのは、中岡サクラさん―元EXISTANCE最年少で性格が天然―で、メグミさんとチカさんの言い合いを、いつものことのように受け取り、しまいには、メグミさんの幼い息子のコウタ君とじゃれあっている。甘いのものが大好きなのに、すらりとしていて、ミディアムショートの髪をオレンジに染めている。

 しばらく、言い合いは続いたが、「まぁまぁ。落ち着いて。」と穏やかに言い、二人の肩をポンポンと軽くと叩き、制したが、私の第二の母であり、元EXISTANCEのリーダー、石川ユイだった。

 



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