パルムの樹

「これは、確か映画だったね」


「そう、ファンタジックチルドレン、ピーターパンの冒険のなかむらたかし監督作品だよ」


「この映画、公開されたのは結構前だよね、どう言う話だっけ?」


「公開、2002年だからねぇ。話を簡単に書くとなかむら版ピノキオです」


「説明ざっくり過ぎィ!」


「もうちょっと詳しく書くと……木製の機械人形パルムがある人物から特別な油を体に注がれて、パルムの意識が戻るんですよ。その人物がこれをある場所に運ぶと人間になれるって言って消えてしまう。人間になりたいパルムが様々なトラブルを乗り越えて、仲間を見つけ、冒険の果てにその場所に辿り着くと……と、そんな内容の映画です」


「冒険モノのアニメだね。油って言うのは?」


「パルムの血液の代わりになるのが油なんだよ」


「おお、なるほど。で、映画らしく派手な冒険が続くと」


「そうそう、世界観が独特で幻想的なんだけどリアルで残酷なんだ」


「残酷って……最後は悲惨な終わり方に?」


「それは作品を見てもらいたいからここでは言えないよ。ただ、ピノキオのような終わり方はしないとだけ」


「それ、ほぼネタバレみたいなものじゃ……」


「でもどう言う終わり方なのかはちゃんと映画を見て欲しいな。この作品の評価って賛否両論なんだ」


「そう言えば元ネタのピノキオも実は結構えぐい話みたいだよね」


「それ、知らなかった。昔に書かれた原作だから表現がハードなんだろうね」


「パルムも物語中で死にかけたり?」


「そう言うシーンは……あるかな。パルムは狙われてるから」


「え?何で、その油のせい?」


「そう、この特殊な油は伝説の油で貴重なものなんだ」


「そう言う物語展開は現代風な感じがするね」


「不思議な動植物や人種、ファンタジックな異世界を舞台にしているから、視覚的にも楽しめると思うよ」


「映画の予告編見たけど音楽が何か特徴的だった感じが……」


「そう、この映画のBGMはハラダタカシさん。日本人唯一のオンド・マルトノの奏者だよ。この楽器は電子音楽の走りでとても不思議な音色を奏でるんだ」


「へぇぇ、映画の不思議な世界観にピッタリあってるね」


「私もこの音楽が聞きたくてこの映画を見に行ったって部分があるよ」


「後、大きな魚が空を泳いでいたりしたね。あの魚って物語に大きく絡むの?」


「いや?アレはあんまり絡まないんだなぁ」


「あんなに美味しいキャラなのにw」


「予告編見たから分かると思うけど銃撃戦があったりするんだよ」


「SF的な要素もあるんだね。やっぱり現代っぽいや。それと予告の最後に流れるパルムの僕を人間にしてよ!って叫びが切ないね」


「この映画、テーマ的に深いからね……明るいシーンも少しあるけど全体的に暗いんだよ。主要キャラがそれぞれどこか心に闇を抱えていて、人間関係が結構リアルで」


「ジブリ的な明るくて楽しいって映画ではない……と」


「対極、とまでは行かないけど方向性は違うかな」


「子供向け……なんだよね?」


「子供が主人公側だからそこは間違いなく子供向け映画だと思うよ」


「トラウマとかにならないかな?」


「パルムの樹で検索するとパルムの樹 トラウマって出るくらいだから……」


「でも分かりやすい柔らかい話ばかりが子供向けじゃないよね」


「そ、そうなんだよね。こう言う話も情操教育に必要だよ」


「この話は子供が親を求める話になっているんだ。そう言う視点で見るとまた違った感じで見られると思う」


「キャッチコピーが愛を知らない少女と愛しか知らない人形の物語って言うのも深いなぁ」


「だから賛否両論なんだけど、私はこの映画、好きです。EDの新居さんの歌も映画によくマッチしていて最高なんだよね」


「じゃあ最後に、泣ける?」


「感情移入出来れば、泣けます。人を選ぶけど私にとってはいい映画でした」


 と、言う訳で今回取り上げたのはパルムの樹です。

 2002年公開だからもう15年前くらいの映画になりますね(執筆時)。


 木で出来た人形のパルムが人間になると言う目的を持って旅をする、そんな映画です。


 舞台は地球じゃないどこか不思議な世界。そこでは空を起きな魚が泳ぎ不思議な植物や不思議な生物が生きている。世界は三層に別れ天上の世界と地上の世界、そして地下世界がある。人間は地上の世界に住みその世界で懸命に生きている。


 そんな設定の中で冒険するパルムは様々なトラブルに巻き込まれ、やがて仲間も出来、少しずつ着実に目的に向かって進み続ける。そしてパルムは最後に衝撃の事実を知る事になる……。


 ネタバレをしないように書くとあらすじとしてはこんな感じでしょうか?

 とにかく世界は美しいんですよ。本当に幻想的で。

 でもそこに生きる人達は実に泥臭く懸命に生きている。欲望も渦巻いている。夢を諦めた人もいる。過去の亡霊に囚われた人もいる。美しい世界とは対照的です。


 パルムは人形なので最初はそんな人の心がよく分かりません。

 けれど人と接していく内にそんな人の心を理解するようになって来ます。

 ただ、大事な目的があるためにそっちを優先することもしばしば。


 ヒロインのポポは特殊な事情のために愛された事がありません。逆にパルムは愛された記憶しか持っていないのです。この2人が出会う事で物語は大きく動きます。


 パルムは、ある時はポポを求め、またある時はポポを突き放したりします。情緒不安定と言うか精神が幼いからなのでしょうね。ジブリ男子みたいに命をかけてヒロインを救う!そんなテンプレではないんです。


 この映画はいろんな人物のドラマが平行して描かれていて、ちょっと複雑です。パルムに注がれた特殊な油を奪おうとする勢力と旅の途中でパルムを仲間にする孤児の集団。そしてヒロインの家庭の事情。孤児のリーダーの家庭の事情。油を奪おうとした勢力の本当の目的――。


 この映画、映像表現は素晴らしいんですけど、音楽もそれに負けないほど素晴らしいんです。オンド・マルトノの聞きなれない幻想的な音色が作品世界にすごくマッチしています。異世界観バリバリです。


 賛否両論のある映画でした。映画の最後をどう捉えるかで評価が変わってしまうんです。否定的な意見がある事で分かる通り王道的な終わり方はしません。元々テレビ用の企画が映画になったので展開が急過ぎるところもあります。


 それでも私はこの映画が好きです。伝えたいテーマが深いからこそ、何度も見てそのテーマを心に染み渡らせる事で深い満足感が得られるからです。EDの「空の青さ」を映画を振り返りながら聴く時、感極まって何とも言えない気持ちになるんです。トラウマになる可能性もありますけど、出来れば是非見て欲しい傑作です。

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