第10話そんなセキュリティで大丈夫か? 正常だ、問題ない

<愉快な拷問の歌>

 作詞:回収屋

 作曲:ポチ


1.知ってるコトを全て吐け 一言一句漏らさずに 言いたくないなら構わんよ

怖いオジサンやって来て ピンクなオモチャで遊んでくれる 君の意識は瞬時に溶けて 生まれて初めて出す声に 親兄弟は号泣さッ

I can fly~~ I can fly~~ ますます頬を赤らめて♪

I can fly~~ I can fly~~ 低温ローソクまとめ買い♪


2.我慢なんかしなくていいよ 感じるままを受け止めちまえ そこで見つけた自分の限界  でも、でも、でも、世界は君に期待してるよ まだまだイケる 開発しまくれ 放送コードをブッ飛ばせ 性欲に負けた? いいや、理性に勝ったのさッ

No  we  can't~~ No  we  can't~~  正体不明の汁垂らし♪

No  we  can't~~ No  we  can't~~ 三角木馬が今日も鳴く・うッ♪


「もう、らめえぇ★」

 辺りに響く浜松の嬌声。

「よくもまあ、コケにしてくれたなあ」

 弥富はそれはもう憤慨気味で、三角木馬に跨った浜松のケツをムチでシバいてる。

「さ、さっちん……ちょっとええかなァ?」

 あまりの覚醒っぷりに出雲は声がかけにくい。

「ああんッ? 何だよソノ格好は? 全身ピッチピチにしやがって。魔女っ娘だあ? 外見的年齢を考えろよ」

 ペシペシペシッ!

「はひィ★」

 血走った目で罵倒され、肉づきの良いケツを折檻された。

「や、弥富さん……こんなコトしている場合では――」

 仲裁専門の郡山が割って入るが、今回ばかりは彼自身の姿にまず問題が。

「おいおい、勘違いしまくった男の娘かあ? アイドル面は何やっても許されると思ってんのかあ? 鏡をしっかり見ろ。スネ毛はしっかり剃れ」

 ペシペシペシッ!

「はうぅ★」

 同様にケツを折檻。あっという間に涙目だ。

「御主人よ、儂……」

「却下だ」

 土佐は一蹴された。目出し帽を装着した不審な高齢者に対し、特にコメントは無い。

「ふううううう~~……」

 一通りツッコミを終えた弥富は大きく溜息をつき、ドカッと腰を下ろした。四つん這いになった浜松の背中に。

「あふぅ★」

 口から漏れるピンクな声。既に魔女っ娘じゃなくてマゾっ娘だ。

「オマエ、本当に『深見素赤』なのか?」

 弥富は一気に核心を突く質問をした。

「うっしゃあッ!」

「うわおッ!?」

 肉ベンチ浜松が勢い良く立ち上がる。座っていた弥富は無様に地面を転がって、三角木馬の角に後頭部をゴリッとぶつけた。ゴリッと。

「ここまで追求されては仕方ないわッ! このあたし『浜松』こそが、『深見素赤』の進化した姿なのよッ! アハハハハハッ!」

「おォォォいでえ~~(痛) おォォォいでえ~~(泣)」

 踏ん反り返って高笑いする浜松をよそに、弥富は地味に痛くて聞いちゃあいねえ。

「いえ、単純に考えてソレはあり得ませんね」

 郡山が冷静沈着な目つきで浜松を凝視する。ミニスカからのぞくトランクスが間抜けでどうしようもないけど。

「あたしの言う事が信じられない?」

「はい、信じられません」

 そりゃそうだ――そんなカンジで他の禁魚達もいっしょに頷く。

「そもそも、どうやって人類が魚類に? 質量保存の法則を無視した特撮のヒーローじゃあるまいし。科学的に考えてオカシイでしょ」

 もっともだ。他の禁魚達はまた頷く。

「おーけー、おーけー。なら、アンタ達の疑問を解消すべく、当初の予定をすぐ実行に移そうじゃない」

 そう言って彼女は弥富に歩み寄り、魔法のステッキをブン回す。

 ――ゴンッ

 鈍い音がした。次の瞬間、弥富の意識は魔法の力(物理)によってフェードアウトした。


「――――マジで?」

 しばらくした後、意識が戻った弥富。彼はそびえ立つ高層ビルを仰ぎ見ていた。アキバの街で一番の規模を誇る、大手ソフトメーカー『享輪コーポレーション』の本社ビルだ。正直なところ、就職活動すらしたことのない彼にとって、プロの社会人が行き来する建物に入るのは、初めて野グソをするくらいの勇気がいる。目を泳がせながら大きな自動ドアの前に立ってみたが、左右に立つ二人の警備員は声をかけてくる様子もなく、すんなりと中に入れた。よし、幸先が良いぞ。このまま首尾良く――


 バタバタバタバタッ、ザッザッザッザッザッ!


 玄関ホールに入った矢先、不吉な喧騒が空気を震わせた。やがて、来客者等の視線が一点に集中し、そこから沢山の靴音が響いてくる。

(な、何事だよ……!?)

 一瞬、嫌な静けさが時間を止めた。

「皆さん、その場から動かず御静かに!」

 スーツ姿の中年男性が玄関ホールの中央に立ち、大きな声を張りながら中二階への階段を上っていく。更に、軍服を着た連中が大勢後に続き、玄関ホールを占拠するように展開する。

「たった今、このビルは封鎖されました! 建物内の全員の出入りを禁じます!」

 中年男性が中二階から拡声器で警告した。

(なんですとォォォォォッ!?)

 緊急事態だ。ビルの外周に軍人達が手際良くバリケードをはり、全ての出入り口に見張りが立った。

「コレは何事ですかッ!?」

 エレベーターが降りてきて、役員らしきオバサンが姿を現す。玄関ホールで立ち往生する来客者も同様で、各々が不安の声を上げる。

「皆さん、どうか静粛に。我々は『電薬管理局』の者です」

 父よ母よ、実家で飼ってるオウムよ。トラブル発生です。現状、最も出会ってはいけない連中と、ダイナミックに遭遇してしまいました。追伸――あまり電話できなくてゴメンナサイ。アナタ達の息子は、そろそろ手錠の冷たさを知りそうです。

「ガンバレヨ、ロクデナシ」

 オウムの声が聞こえた。そんな気がした……。

(撤収ッ!)

 弥富は心の中で勇ましく自分に命令を下し、コソコソと隅の男性用トイレへと逃げる。

 バタンッ!

 またもやトイレの個室に引きこもる。そして、クソ重いビニール袋を足元に置き、インカムを装着した。

「おい……大問題発生だ」

 便器のフタに腰掛けて、脱力したみたいに俯いて呟く。彼を中心にまたしても始まる禁魚のトイレ会議。

「それにしても、タイミングが悪過ぎですね」

「偶然とはさすがに言い切れんのう。浜松よ、お主が深見素赤であると言い張る根拠、本当にこのビル内で証明できるんじゃな?」

「ええ、もちろん。目指すは地下のメインサーバー室。いざ、突貫ッ!」

 あはははははぁ~~、そりゃムリだあああああぁ~~☆

 あまりに高いハードルを課せられ、弥富はもうなんか笑うしかない。

(どうする気なんだ、アノ連中……?)

 トイレの入り口の隙間からコソコソとのぞいてみる。

「ここに深見素赤という社員が勤務しているハズです! 今すぐ呼び出してください!」

「うぅおォえええええええッ!」

 浜松が盛大に吐いた。胃袋がビックリし過ぎて踊ったらしい。

「おい、呼んでるぞ」

 学校の友達を人身御供として先生に突き出すような……そんな冷酷な声で弥富が言う。

「そうみたいですね」

「せやなァ」

「ふ~~む」

 完全に他人をきめこむ他の禁魚達。

「う~~わ~~、化学の力でポチの意識は朦朧だ~~」

 後ろの方では、トイレ用洗剤を使った毒ガス兵器が製造されとるし。

「なあ、おい。こういうの予測してたんじゃねえの? なあ、おい」

 ぐいぐいぐいッ、ぐいぐいぐいッ……

 弥富が浜松の首根っこをマジ気味で絞め上げる。

「や、やめて。大声出すわよ。更には訴えて勝つわよ」

 ガンジーも思わず暴力を解禁しそうな、イラっとする面だ。

(俺はどうすりゃいいんだ?)

 人にはそれぞれ得手不得手というのがあってね、今のこの状況をどうやって打破しろと? 税金で生活している怖い人達が沢山いるよ。使われたら命が「おふッ」って言いそうな武器持ってるよ。え? 俺の装備? 使えねえ魚類が四匹と、ラップトップが一台。あとは豆腐にぶつかっても割れそうなハートぐらいだ。

「ぜ~~んぜん関係ないもん。あたし何も知らないも~~ん。あ、掃除用具入れに段ボールがあった。かぶってみよう。わあッ、桃源郷が見えるゥ!」

 主犯が現実逃避を始めた。

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