3
いつまでもうだうだ泣いていてもしょうがないので、何とか自分を落ち着かせようと深呼吸をしようとするが、肋骨がツキリと痛んで深呼吸すらロクにできなかった。
体は起こせそうにないので薄い掛け布団をめくって目線だけで自分の体をみると、服はパジャマの様なものに変えられていて、右腕と右足には包帯が巻かれていたが、左足は左手同様無事だったようだ。足首のあたりに何か巻かれているが、動かしても痛みはない。
自分の体を観察した後部屋をもう一度ぐるっと見回すと、部屋の扉はヴァンパイアたちが出て行った別の部屋へ続く赤い扉しかなく、外へと通じるのは小さな窓だけ。
その小窓は小さすぎてとても人が通れる大きさではないから、もし逃げ出すとしたら赤い扉を抜けて別の部屋にあるであろう玄関を探さなければならない。
…そんな現状が分かったところで、今は逃げ出すどころか寝返りすらうてないのだけれど。
はぁ…っと肋骨に響かないよう小さくため息をつくと、キィっと赤い扉が開いた。
ビクッとして視線をそちらへ向けると、そこには再びヴァンパイアの姿が。
ヴァンパイアの手にはお盆があり、その上に飲み物がのせられていた。
魔物の登場に身構えて体を強張らせていたのに、それを見た瞬間急激に喉が渇きを訴える。
…2日も意識がなかったと言っていたから、きっと飲まず食わずで脱水気味になっているのだろう。
ごくり、と乾いた喉が鳴った。
「…喉が渇いたろう。薬も持ってきた。飲めば少しはマシになるだろう」
そう言いながらヴァンパイアがベッドサイドにあった椅子の上にお盆を置く。
言葉通り、お盆のには薬と水らしきものと…あとブドウのようなものが3粒ほどのっていた。
「………」
「………」
(どうせオレを食べるくせに…薬とか、どういうつもりだ…?)
ヴァンパイアの真意が分からず、探るように水とヴァンパイアを交互に見ていると、ヴァンパイアがすっと手をオレの顔の方へと伸ばした。
「………っ」
思わずギュッと目をつぶり左手で身構えるようにしていると、すっと頭の下に手を差し入れられて持ち上げられると、何か柔らかいものを頭の下に差し込められる。
ヴァンパイアの手が離れてから目を開けて左手で頭の下を確認すると、差し込まれたのは枕だったようで、高さのあるものが差し込まれたせいで今自分は頭だけ起き上がっている状態だ。
「……ほら」
それからヴァンパイアはオレの左手に水の入ったコップを握らせて、お盆を手に取るとオレの左手付近に置いた。
「………」
「………」
(……飲みやすく、してくれたのか?)
全身の痛みで体を起こせないが、仰向けに寝たままでは飲み物を飲むこともできない。
…だから頭を起こしてくれたのだろうか。
相変わらず無表情なヴァンパイアの考えが読めず、訝し気に見つめていると、
「……安心しろ。それはただの水だ。薬は痛み止めと化膿止めで…ちゃんと人間のものだ」
とヴァンパイアが口を開いた。
ヴァンパイアはオレが疑ってると思って安心させるためにそう言ったのかもしれないが、それを聞いてオレは
(そうか、水じゃなくて毒かもしれないんだ!薬だって、体を麻痺させたりして逃げだせないようにするための薬かもしれない…!)
と逆に怖くなってしまった。
(……どうしよう、飲みたい、けど、怖い…)
どうしよう、どうしよう。
いつまでも水をじぃっと見ながら悶々としていると、突然白い手にぱっとコップを奪われた。
「……ぁっ」
慌てて左手を伸ばして目で追うが、コップはオレの手の届かない高さに行ってしまい、
そしてヴァンパイアは薬も手に取りぽぽいと自分の口の中に放り込むと、水をくぃっと飲んでしまった。
それからコップをお盆に戻し、オレの方へと顔を向けて、目が合った次の瞬間…
突然ぐっと顔を手でつかまれて、顔が勢いよく近づいてきた。
(食われる…っ!!)
慌てて左手で抵抗するがヴァンパイアの強靭な体はびくともせず、下手に力んだせいで自分の体が痛みに悲鳴を上げるだけだった。
死を覚悟して目をつぶると―…なんと
そのままブチュっと音がしそうなくらい、勢いよくキスをされた。
「~~~~っ」
必死でもがこうにも、力もうとすればするほど体中の痛みが増し、逆に力が入らない。
痛みで一瞬ひるんでしまったその隙に、ヴァンパイアが口の中に水と薬を流し込んできたため、なすすべもなくそのままごくんと飲みこんでしまう。
(…さっきのは飲んだんじゃなくて、口の中に溜めてたのかよ…!!)
そんなことが今更分かったところでもうどうにもできず、
ヴァンパイアはオレの口の中が空っぽになったことを確認してから顔を離した。
「ゴホッゴホッ…っ」
「ほら、なんともないただの水だろう。薬が効くまで寝ておけ」
「~~~~~っ」
(水がなんともなくとも、今のは何ともなくない…!!)
初めてのキスを魔物に奪われた上に噎せたことで胸に激痛が襲い、何とも言えない気持ちで睨みつけていると、ヴァンパイアは濡れた唇をペロリとなめて何事もなかったように部屋を後にしてしまった。
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