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(痛い…痛い…痛い…!)
今までに感じたことの無いような、焼けるような刺されるようなとんでもない痛みに刺激されぱっと目を開けると、
「………っぅわあぁぁ……っ!!」
「………」
目の前に金色の瞳に
驚きのあまり体をガバっと弾かれるように起こし大声をあげるが、全身からの激痛にすぐに声を止めてうずくまる。
尋常じゃない痛みにさーっと血の気が引いて冷や汗が滲んだ。
そんなことを知ってか知らずか、白藍色の少年は青碧の長い髪を揺らしながらとてとてと離れて行った。
「ガウ、起きたよー!人間、起きたー!」
「…叫び声が聞こえたから分かっている」
扉が開く音とともにそう声が聞こえると、とてとてした足音ともう1つ別の足音がこちらへと近づいてきた。
激痛の中必死に目を向けると、先ほどの白藍色の少年の隣に真っ青な肌で真っ赤な目をした銀髪の青年の姿が。
「………っ」
(……!ヴァンパイア!!)
少年の隣にいた青年は、先ほど見たヴァンパイアだった。
逃げだそうと手足に力を込めてみるが、体中が激痛に悲鳴を上げて全く動けそうにない。
近づいてくる足音から身構えるように、目をぎゅっと瞑りながら手元にあったシーツを握りしめた。
(………え、シーツ?)
蹲ったまま薄目を開けると、確かに自分の手にはシーツが握られている。
よく見ればシーツを掴む手に包帯も巻かれている。
(…そういえば地面にいたはずなのに、床も柔らかい…?)
何が何だか分からないまま固まっていると、少年と青年が自分の傍らまでやってきた。
「…馬鹿だなぁ。体を起こしたのか?痛いに決まってるだろう…傷が開くぞ」
先ほどの少年とは違う声。きっとヴァンパイアの青年だろう。
キリッとした声と裏腹に、その声色は優しかった。
「……え?っ」
ヴァンパイアの方へと顔を向けて見るが、やはり体が痛みを訴えて、すぐに顔を戻してまたうずくまってしまった。
「…ほら、動くから痛いんだ。横になってじっとしていろ。肋骨も足も腕も、綺麗に折れてるんだぞ」
そう言ってヴァンパイアがオレの体へ触れた。
魔物に触れられたことに思わずビクッとしたオレの反応にヴァンパイアは一瞬手を止めたが、そのまま優しい手でオレの肩と背中に触れて上半身を後ろへ押した。
激痛がひどく逆らう力も気力もないのでされるがまま仰向けになると、背中に柔らかい感触。
どうやらここはベッドの上らしい。
仰向けのまま強張らせていた体の力を少し抜くと、痛みが少しだけ和らいだ気がした。
ふぅっと息を吐いてしてしっかり目を開けると、見慣れない天井が見えて、そしてこちらを見つめていた赤い瞳と金色の瞳とバッチリ目があった。
少年はなんでかすごいガン見しているし、ヴァンパイアは真顔だ。
「……骨折って……オレはさっき森にいたはずじゃ…」
あまりの状況に訳が分からず、独り言のようにぽつりと呟くと、ヴァンパイアの長いまつげがふわりと動いた。
「……さっきじゃない。2日も前のことだ。お前が崖から落ちたのは…」
「え…2日…?!」
ついさっき宙を彷徨ったと思っていたのに、2日も経っているなんて…
(嘘だろ…!?)
だがしかし、森にいたのが自分が思っているような数秒前とかではないということは、自分の置かれてる現状からも見て取れる。
…きっとヴァンパイアの言っていることが正しいのだろう。
顔を強張らせたまま視線を彷徨わせ辺りを窺うと、見慣れない家具に小さな窓。電気ではなくて蝋燭で明かりが灯されていた。
ここが自分の家ではないことは確かなのだが…いったい何処なのだろう。
一体なぜオレはここにいるのだろうか。
(もしかして、ヴァンパイアの住処…?)
(……もしかしなくても、オレ、ヴァンパイアの食料にされるのか?)
そう考えた瞬間心臓がバクバクと早まり、変な冷や汗がジワリと手のひらに滲む。
「崖から落ちて右腕と右足が不自然に曲がっていた。頭も打って意識がなかったから、ここへ連れてきた」
「………っ」
その言葉に体を動かせないので目線だけを向けたが、ヴァンパイアはガラス玉のように透き通る赤い瞳を無表情にこちらへ向けているだけで、感情が読み取れない。
(…どういう意味だ…"オレは何もやってない、お前が勝手に獲物になっただけだ"とでも言いたいのか…)
怖いし、悔しいし、逃げ出したいのに、全く動けない自分が情けなくて…精一杯の虚勢でぎっとヴァンパイアを睨みつけた。
ヴァンパイアはオレのそんな視線を受け流すようにすっと視線を外して
「……傷を広げたくなければそのままゆっくり寝ておくことだな」
そう言葉にすると、オレに背を向けて扉の方へと歩き出した。
「ガウ、人間このままなの?人間生きてたのに、このままなのー?」
とてとてと白藍色の少年がヴァンパイアの後ろについて行きながら話しかける。
"ガウ"とは、ヴァンパイアのことだろうか。
「あぁ、このままだ」
「大丈夫なのー?」
「あぁ、大丈夫だ。怪我をしてるからな」
「僕でも大丈夫なのー?」
「あぁ。…だけどやたらに触るなよ」
「分かった!」
そんな会話をしながら2人は扉を開けて、隣の部屋へと消えて行った。
(なんだよ、今の会話は……)
何が大丈夫なんだ。
オレが怪我して動けないから、放っておいても逃げ出さないという意味なのか。
(…全然大丈夫じゃないし…いったいオレはどうなるんだ…)
体中に走る痛みだけでも苦しくて死んでしまいそうなのに…
この先どうなるかを考えると絶望しか見当たらず、なんとか動く左腕で震えながら涙を拭った。
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