第20話

 鉄は氷の知識の多さに感心しました。氷の話は自分の知らない事ばかりなので鉄は真剣に耳を傾けました。しかし、周りの金属や石達は氷の話には無関心で、むしろうんざりした表情でした。


 「お前さん、辛抱強いな。」


 鉛が鉄に小声で耳打ちしました。


 「あいつの言っていることは俺にゃあ分らん。そもそも、ありゃあ俺達に何かを教えようとしてるんじゃない。自分の賢さを自慢したいだけだ。しかし俺達ゃ、あいつに物申すことはできねえ。知識がないからな。だからあいつはこの小さな星で女王のように振る舞っているのさ。」


 鉄は氷の話からたくさんのことを知りました。しかしそれはとても苦労の伴うものでした。というのは、氷の話には筋道がなく、彼女のの思いつくまま話があちこちに飛ぶし、ところどころ何の関係もない誰かの悪口が入ったりするからです。


 鉄はそういうバラバラな話を頭の中で組み立て直して、なんとか理解することができました。


 「おい、ユピテルだ。」


 突然、鉛が言いました。


 「ユピテルが見えたぞお。」


 鉛は天井から宇宙を見上げながらそう叫びました。

 他の塵達もいっせいに鉛の視線の方を見、鉄もそうしました。

 そこには、宇宙の黒い闇を背景に、白く輝く小さな円がありました。


 「あれがユピテル?」


 鉄はつぶやきました。周りの塵達も口々に歓声を上げています。

 もう誰一人として氷の話を聞いていませんでした。氷は不機嫌そうに口をつぐみました。


 「そうさ、あれがユピテルだ。母星を回る燃えない星の中で一番大きいやつだ。」


 ユピテルは他の星と違って見えました。丸いのです。他の星々は、明るい星も暗い星もすべて光る点でした。しかしユピテルは丸く見えるのです。つまり大きさがあるのです。鉄の知る中で、丸く見える星はヘリオスの他に知りませんでした。


 イカロスはユピテルに近づいていきました。イカロスは回転しながら飛んでいますので、イカロスの表面の窪地にいる鉄達からはユピテルがずっと見えているわけではありません。窪地の天井の穴を時折ユピテルが横切るのです。窪地の天井を横切るたびに少しづつユピテルは大きくなっていきました。


 「今回はずいぶんとユピテルに近づくな。」


 鉛が言いました。


 「いつもはこんなには近づかないの?」


 「ああ、いつもはもっと前で進む方向が逸れて、イカロスはまたユピテルから離れて行くんだ。ここまで近づくことはめったにないな。鉄よ、お前はついてる。ユピテルに歓迎されてるぜ。」


 そう言われて鉄は上機嫌でユピテルを眺めました。

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