第18話

 小惑星は、離れて見ると小さな天体でした。星というよりは少し大きな岩でした。それでも、鉄の体と比べると何百万倍もの大きさですから、実際に小惑星の表面に降りると今までとはまったく景色が違いました。鉄が下りたのは窪地でしたので、下は地面で、周りは壁に囲まれ、ぽっかりと空いた頭上の天井からだけ見慣れた宇宙が見えました。


 小惑星はくるくると回っていました。天井の穴から見える星空もじっとしてはおらず、たえず変化していました。時折ヘリオスが窪地に光を差し込むと、辺りは眩しく輝きました。


 見慣れない景色に戸惑いながら鉄は考えました。


(この岩はどこに向かっているんだろう。これに乗ってヘリオスまで行けるのかな)


 その時、


 「やあ。」、「こんにちは。」、「あなたはどなた?」


 窪みのあちこちからいっせいに声がしました。


 急なことに鉄はとてもびっくりしましたが、誰だかわからない相手にあわてて返事を返しました。


 「ええと、僕は鉄です。あの、こんにちは。」


 「ようこそイカロスへ。俺は鉛だ。」


 「僕はニッケル。」


 「私は氷よ。」

 

 「ああ、どうも、はじめまして。僕は、えっと、さっきまでそのあたりの空間を漂っていました。みなさんはどちらから?それで、この岩はどこへ行くの?」


 「イカロスは岩じゃない。そりゃあ、ずっと以前は岩だったがな。たくさんの岩や塵が集まって大きくなった。はぐれ星だ。」


 鉛の声は野太く荒々しい感じでした。


 「はぐれ星?」


 「そう、岩と氷でできた小さな星。母星に近づいたり離れりしながら周りを回っているの。」


 氷が澄んだ声で答えました。


 「母星って何?ヘリオスのこと?」


 「ヘリオスって、なんだそりゃあ?」


 「ヘリオスは燃える星だよ。遠くで光っているあの星さ。遠くって言っても燃える星の中では一番近くにあるんだけれども。僕らが名前を付けたんだ。」


 「ふうん、変わった呼び方をするんだな。まあ、そんなら俺たちの言う母星はそのヘリオスのことだ。」

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