第15話

 それから長い時間が流れました。鉄は、炭と過ごした時間の千倍の時間泣き続けました。


 涙が枯れるまで泣いても鉄の心は晴れません。それどころか悲しみに沈んでいくばかりでした。鉄は二人でいたときのことを何度も何度も振り返りました。ウェスティアのこと、物知りヘリウムのこと、新しくうまれるヘリオスのこと。炭と話したいろんなことを思い出すことだけが鉄の慰めでした。


 しかしそれも、二人が過ごした時間の百万倍の時間が経つころには止めてしまいました。次第に鉄の心は周囲の宇宙と同じように冷たく暗くなっていきました。


 相変わらず他の塵とぶつかることはありましたが、鉄はもうあいさつをしなくなりました。何も考えることなく、ただ暗闇の中を漂い、永遠と一瞬の区別さえつかなくなりました。


 そうして炭と過ごした時間の十億倍の時間が流れたときです。鉄は何かに気が付きました。


 光です。


 これまで一筋の光さえなかった真っ暗闇の中に、今、一か所だけぼうっと明るくなっている場所が見えるのです。


 (なんだろう、あれは)


 かすかな光でした。目をよく凝らして見ないと気付かない程でしたが、確かに何かが光っていたのです。


 不思議な光景でした。ウェスティアを離れて以来、どれほどの長い間光を見なかったでしょうか。この世界に光なんてないのが当たり前だと思うようになっていた鉄の目に、何の前触れもなく光が現れたのです。


 (ヘリオスだ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る