第14話
二人はしばらく黙ったままでした。声が届く距離にいる残された時間、なるべくたくさんの話をしたいのはやまやまでしたが、寂しさが大きくなるほど口を開くのが重たく感じるのでした。
少しの間沈黙が続いた後、鉄は大事なことを思いつきました。
将来、はるかに長い時間をかけて二人が再開したとき、すぐに相手に気付くでしょうか。二人は声の他に互いを知る術を持っていません。真っ暗で相手の姿が見えないからです。
この宇宙に無数に存在する塵や石ころやガスたちの中からお互いを探し出すにはどうすればいいか。何か二人だけに通じる合言葉のようなものを決めておけばいい、鉄はそれを思いついたのでした。
これは絶対に大切なことです。自分と炭を結びつけるただ一つの糸になると思いました。
「おおい、相談があるんだ」
鉄は叫びました。
「何だい」
「僕たち・・・」
そう鉄が言いかけた時、鉄の傍を何か大きな物が通り過ぎたような気配がしました。それと同時に闇の向こうから炭の「じゃあ・・・」という声が聞こえたかと思うと、その声は遠ざかって消えてしまいました。
そして辺りには静寂だけが残りました。
「おおい」
鉄は大きな声で炭を呼んでみましたが、返事はありません。
「おおい、おおい」
何度も呼びましたが、応えが返ってくることはありませんでした。
炭は、岩か何かにぶつかって、暗闇の向こうに跳ね飛ばされてしまったのでしょう。
「おおい、炭くん、おおい。僕たちは合言葉を決めておかないといけないんだよ。僕はそれを伝えようと思ったんだ。まだ決めていないのに。」
鉄は泣きました。泣きながら炭を呼び続けました。決して応えてくれることのない暗闇に向かって。
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