第6話

 「あんな長いあいさつが全部聞こえるなんておかしいぞ」


 そうです。塵同士がぶつかった時、言葉を交わすことができるのはほんの一瞬です。ぶつかった次の瞬間にものすごいスピードで離れていくのですから。


 そんな短い時間では長いあいさつだととても伝わらないので、鉄も他の塵たちも、短いあいさつを心がけているのです。


 「なのに彼の長いあいさつは全部聞こえた。しかも最初から最後まで声は小さくならずに!」


 これはどういうことでしょうか。


 もしかすると長いあいさつの主はぶつかったところから遠ざかっていかなかったのかもしれません。まだ近くを漂っているのかもしれません。


 でもそんなことってあるんだろうか?


 鉄はどきどきしてきました。あの奇妙なあいさつの主はまだこの辺りにいて、「どちらから?」というあいさつに返事をすると、また返事が返ってくるんだろうか。


 もし誰かとおしゃべりできるとしたらなんて素晴らしいことだろう。


 鉄は暗闇の向こうにいるかもしれない相手に呼びかけようと思いましたが、少しためらいました。


 呼びかけても返事がなかったらどうしよう。近くに誰かがいるかもしれないという期待が思い込みに過ぎなかったらひどく落胆するに違いないと思ったからです。


 でも何もせずに独りで過ごすのと、呼びかけて誰の返事もないことを確認してから独りで過ごすのと何が違うというんだろう。そう思いなおすと、鉄は暗闇に向かって呼びかけてみることにしました。それでもなるべく期待を抑えるようにして。


 「おうい」

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